日米普天間返還合意の当事者が語る 「沖縄問題の本質」

翁長知事死去に伴う沖縄県知事選。米軍基地問題辺野古問題を中心に争われるものと思われます。この問題の本質とは何か。

拙著『沖縄両論 誰も訊かなかった米軍基地問題』(フォーNET取材班著 春吉書房 2016年9月)の中から抜粋して掲載します。

 

そこが聞きたい!インタビュー

日米普天間返還合意の当事者が語る

「沖縄問題の本質」

 

軍事アナリスト 小川和久氏

 

法廷闘争、機動隊投入…こじれにこじれた普天間基地辺野古移設。その原点は、普天間基地の危険除去だが、日米で返還合意からすでに19年を経過している。沖縄問題の本質を、当事者が直言する。

 

 

 

 

辺野古案には、軍事的・経済合理性がない

 

 

 

辺野古移設で政府と沖縄県の交渉が平行線を辿り、ついに司法の場に持ち出されました。また、キャンプシュワブ前にはついに機動隊が投入さされる事態になり、現場の緊張感は一層高まっています。まず、この状況をどう見ていますか。

小川 1996年(平成8)4月、日米首脳会談で普天間飛行場の返還が合意された前後から今日まで、そして、これからも当事者として関わっていく者としては、最悪の事態です。答案は一つしかありません。それを政府が出せないとなると、国内問題に対する統治能力がないと、国際社会でみなされる危険性があります。アメリカの基地の問題ですが、本質は日本の国内問題なのです。それなのに、これまで賛成派も反対派も生半可な知識で論争したり、お金が絡んで迷走してきましたし、今の状態ではこれからも迷走しそうですね。結論から言いますが、辺野古移設計画は非現実的なプランです。それなのに莫大な費用を掛けようとしています。本来なら、辺野古に移さなくても解決できるのに、工事が進められようとしています。 万一、辺野古移設が白紙に戻っても、ベターの解答はあります。私が96年6月以来、ずっと提案している案は、移設先の飛行場は基本工事が一年半と仕上げの工期半年間を加えて二年ほどで完成します。今の辺野古の工期五年間は根拠がありません。

―総工費は埋め立ても含めて約3500億円と言われていますが…

小川 この十年間に国内に造られた国内の空港と比べると、特別な広報を必要としないのに相当に高い。しかも、どんどん膨らむ可能性が大きく、5、6000億、下手をすれば1兆円にもなる可能性があります。これは静岡空港が20個できる額ですよ。静岡は用地買収を含めて1900億円かかっていますが、空港自体は540億円ですからね。私が、工期を1年半から2年と言うのは、アメリカのゼネコンがインドで2700メートルの滑走路の軍用飛行場を一年半で完成させた実例を踏まえてのことです。鳩山政権の末期、実際に私が提案してきた普天間の移設案をアメリカ当局といったんは合意していたのです。

―それが「キャンプ・ハンセン」案なのですね。

小川 一貫してこの案を提案しています。日米の役人は演習場内の空き地に飛行場を作るものだと誤解していて、「そんな所に滑走路を造られたら訓練ができなくなる」と反対していましたが、そうではありません。キャンプ・ハンセンの南端に米軍が終戦間際に10日間で建設したチム飛行場の跡地があって、現在はその上に海兵隊の建物が建っています。この下に1600メートルの滑走路があるので建物を移して滑走路を2500メートル前後まで延長するだけで済みます。訓練場に手を加える必要は一切ありません。そうすれば山にも、住宅にも引っ掛かりませんから、安全を確保できます。それから、キャンプ・ハンセンは海抜50メートルありますから、南海トラフなどの大地震による津波、高波の影響を受けません。辺野古は海抜ゼロメートルですから、非常にリスクが大きいのです。

小川 先日、全省庁の課長補佐94人の研修で講義をしました。その時、「辺野古案を軍事的合理性から評価せよ」という設問を出したところ、全員が否定的な答えを出してきました。

―官僚は分かっているんですね。

小川 彼らは優秀ですから、私の著作などを徹夜で研究してきて、ちゃんと正解を導き出せるのです。彼らは言われると分かるのですが、企画力や構想力、つまり真っ白な紙に絵を書く能力が欠如しているだけなのです。

―現在、粛々と進められている辺野古移設計画は、軍事的にも経済的に合理性がないわけですね。

小川 アメリカ側の実務担当者で一番抵抗していたのが、当時のケビン・メア東アジア・太平洋局日本部部長でした。彼が「辺野古案がベストだ」と主張して止まないので、私はそれがベストではない、つまり、海兵隊にとって辺野古は平時、有事にかかわらず使えないことを証明しました。まず、キャパシティですが、普天間の38%しかないし、滑走路も短い。輸送機が使えませんから、海兵隊の主任務である海外への災害派遣ができません。普天間では「アントノフ124」という巨大輸送機をチャーターしていますが、2500メートルの滑走路が必要です。辺野古案はオーバーラン分を含めて1800メートルしかありません。また、有事の際には第1海兵航空団が保有する456機のうち約300機が沖縄に集まります。地上部隊の4万から5万人の兵士も受け入れなければならない。物資を集積する問題もある。辺野古案は話ならないと、メア氏に指摘すると、彼はあっさりと認めました。私が国防総省と認識を共有していることを知っているから抵抗はそこまででした。それでも政権交代直前の段階で軍事的合理性のない辺野古移設案に着地させたのは、中国に日米同盟が安定的に維持されていることをアピールすることが最優先したと認めたのです。海兵隊に「泣いてもらった」というのです。外交交渉は、そういう点を認めさせるところまでやるべきなのです。当時、海兵隊の中将は自衛隊の方面総監に対して「ワシントンの頭の良い連中が書いた計画だからどうしようもないものができた」とこぼしていました。

―中国に対する強力な抑止力になっている海兵隊の存在ですが、辺野古では「張子の虎」になりかねませんね。

小川 そのため米国側は、有事の際には膨れあがった海兵隊機に那覇空港を使わせようと考えているようです。また、メア氏に対しては、工期5年という数字は2005年に守屋武昌防衛事務次官と私で一つの目安として決めた数字が一人歩きしたもので、何の根拠もない数字だと伝えました。つまり、今の計画は全て根拠の無い数字で進んでいるものです。こんなことで、もし、今の騒動で血が流れることになれば本当に悲しいことです。

 

 

「96年4月2日、自民党政調会

 

 

 

―沖縄の問題を解決する第一歩が、普天間の危険除去だったはずですが…

小川 1995年に日米両政府間で沖縄にある米軍基地の整理・統合・縮小などについて検討することになりました。この時、日本側から普天間の返還を要求しましたが、アメリカ側から拒否されました。96年4月2日夜に自民党本部で開かれた会合のテーマは、16日に予定されている日米首脳会談に向けてのメモ作成でした。外交・安全保障の専門家として呼ばれていた私は、当時の政調会長だった山崎拓さんに「この際、普天間を取り返しましょう」と提案したのですが、山崎さんは「一回アメリカに蹴られて、共同文章の中に“継続的に協議する”という文言を入れるのがせいぜいだ」と言います。そこで私が「取り返せるものを取り返さずにどうするのですか。第一ラウンドにダウンを喫したから試合終了じゃないのですよ。闘いはエンドレスです」と、米国側は軍事的能力が低下しない範囲なら受け入れることを説明すると、ジッと考え込んだあと「これから橋本(龍太郎)総理にこの話を持っていく」と答えました。この時、同席していた経済を担当する元大蔵省財務官で、当時は慶応義塾大学教授をしていた内海孚(まこと)さんが言いました。「官僚としての経験から言えば、政治的な決断をする時には、マスコミに漏れるから官僚をできるだけ少なくした方がいい」。これを受けて外務省の田中均さん(北米局参事官)だけが米国との交渉に当たり、「今後5~7年以内に、十分な代替施設が完成した後、普天間飛行場を返還する。施設の移設を通じて、同飛行場のきわめて重要な軍事上の機能及び能力は維持される」という合意に達したのです。

―一発逆転ですね。しかし、あの巨大な普天間飛行場の移設先を確保するのはそう簡単ではないように思いますが…

小川 返還合意の大前提が普天間の危険除去ですから、直ちに閉鎖すべきなのです。まず、キャンプシュワブの一角に仮の移駐先を作る。これは戦場の常識でやると、駐機場とヘリ発着スペースは二日間で出来ます。これに1500~1600メートルの滑走路を加えても、1ヵ月以内にできます。この工事をどうやるか。米軍基地内ですから日本の法律は適用を除外されます。日米共同訓練という枠組みで陸上自衛隊の施設科部隊を海上自衛隊輸送艦おおすみ」で運び、大型ホバークラフトLCACで土木機材を海から直接揚陸して、24時間の突貫工事でやればできます。

―なかなか想像できませんね。

小川 戦場では当たり前ことです。50機規模のヘリ基地を1、2日で移動させます。防衛省の役人が蔭で「戦場じゃないんだから」と言うのが聞こえたので、「あなた達、普天間周辺の住民が戦場と同じ状況である事を理解すべきだ」だと叱責しました。

―それが本土の沖縄に対する「無理解」「無関心」の象徴ですね。

小川 本土の国民は仕方がありません。直接関係無いことですからね。本土が理解していることを沖縄県民に示すのは、本来総理の役割ですよ。

―それができていない…

小川 安倍総理を好き嫌いで判断する傾向がありますが、外交などこれまでの総理の中ではかなりの仕事をやっていると思っています。ただ、この問題に関しては、菅官房長官に丸投げしてしまっています。それをさらに官僚に丸投げしてしまっていますから、ボタンの掛け違いが起きていると思いますね。この状況を打開にするには、まずは仮の移駐先を確保して普天間の危険を除去してみせる。そこで沖縄県民の信頼が戻ります。それを受けて総理自身が沖縄に乗り込んで、正面から説得すればば県民の姿勢は大きく変わりますよ。

―結局は、沖縄県民だけではなく日本全体が覚悟するしかない。

小川 アメリ海兵隊は軍事的能力が落ちなければ他の基地の整理・統合・縮小にも応じるのです。辺野古のように、狭い場所に押し込んだのでは他の基地に関する交渉には応じません。そういう戦略的な視点が官僚や政治家に無いのです。私が提案しているキャンプ・ハンセン案は安くて早く済みますから、鳩山政権時代の駐日大使は、「余ったお金は、海兵隊のグアム移転の費用に回してもらいたい」と言っていたくらいです。アメリカは沖縄県民の感情が悪くならず、早く、安く建設でき、かつ軍事力が維持できればいいと思っています。

 

 

 

迷走の始まり

 

 

 

 

―設問は明確なのに解答を出せない…

小川 結局、それを誰もやろうとしないから、返還合意から20年近くが経っています。やれるのにやれない、というよりは「やれる」ことを政治家、官僚、マスコミが全然理解していないのです。まずやるべきは、政府が沖縄県民に対して前提となる条件を確認する作業なのです。沖縄県民が米軍基地問題から解放される選択肢は理屈の上では三つあります。一つ目は日本から分離・独立する、二つ目はアメリカの一部つまりグアムのような準州になる。そうなると米軍基地は沖縄にとって自国の基地になります。三つ目は日本国の沖縄県として最高の答案を出す。一と二についてはリスクが大きいとして沖縄は選択しませんでした。当時の大田昌秀知事は私に「分離・独立と簡単に言うが、我々には血を流す覚悟がありませんでした」と言われました。そうなると、残る三番目、日本国の沖縄県としてベストの答案を政府に書かせるしかないわけです。

 もう一つの確認事項は防衛体制に関してです。一つは、日米同盟を活用して沖縄の負担を無くして安全を実現する。もう一つは日米同盟を解消して、武装中立するという、二つの選択肢についての確認です。二つ目の武装中立を実現すれば、もちろん米軍基地は全て無くなります。しかし、防衛を独力でやるとしたら現在の防衛費5兆円が年間23兆円規模に膨張します。コストの問題もさることながら、日本が自立した軍事力を持つと国際的孤立を招くリスクがあります。また、米軍の代わりに沖縄の島という島に「日本軍」が駐留することになります。スーパーパワーのアメリカの抑止力が効いているからこそ基地は現在の規模で収まっていますが、日本だけで守ろうとすると沖縄県の主要な島全てに基地を置かなければならなくなります。これを沖縄県民が選択するとは思えません。つまり、日米同盟を活用するしかないのです。事故の危険性や米兵の犯罪が懸念されるわけですが、それをゼロに近く抑え込んでいくのが政府の仕事なのです。

―よく「日米地位協定」を改正できないことが問題視されますね。見直せないから問題だと。

小川 これも、日本側に問題があります。協定の中身を変えないのは、日本側の問題なのです。アメリカが求めているのは、軍事的能力が維持されることと、沖縄県民の米軍に対する感情がより良くなること、この二点だけなのです。日本側が交渉力を持っていれば、いかようにもなります。協定を改定するとアメリカが展開している他国・地域もドミノ倒しのようになると危惧する声もありますが、それなら日米の二国間だけの特別協定を結べばいいだけの話です。それを不磨の大典のように変えることが出来ないのは、憲法改正が出来ないのと同じく日本の悪しき体質です。これからでも遅くはないので、政府は沖縄県民と、日本国の沖縄県としてベストの答案を描いていくことについての確認と、そのためには日米同盟を活用しながら沖縄県民の負担を軽減して平和を実現するという選択について確認すべきです。そう整理の中で、普天間の移設は県内ということに落ち着くのです。

―鳩山政権時代に鳩山元首相の「最低でも県外移設」の発言が、こじれた原因だと指摘する声も大きいですね。

小川 あの発言は選挙の時に言い出したもので、私が就任直後の鳩山さんに「リアリティのない県外移設案を撤回すべきだ」と指摘しました。その後、判断力のない鳩山さんは色んな専門家に意見を聞いて、その結果、私の提案に戻ってきました。そして私に「総理補佐官になってアメリカと交渉してくれ」と要請して、私は民間の専門家の立場から移設案の整理と策定作業に入りました。補佐官の辞令が出るとマスコミに追い回されますから、下交渉の段階では民間人として動くことにしたのです。アメリカ政府も日本政府の担当者が陪席することを条件に受け入れました。アメリカ側は私の提案を肯定的に受け入れ、日本政府に「小川案への一本化」を求めることになりましたが、私に同行していな民主党議員が総理に連絡しても応答が無くなってしまい、その結果、アメリカ側は辺野古案に戻してしまったのです。これは、ひとえに日本側の責任です。

 

 

海兵隊の抑止力とは

 

 

 

―沖縄の米軍基地を本土も受け入れるべきだという声も聞かれます。

小川 日本国全体で負担を分かち合うべきなのは当然ですが、軍事上沖縄に置かなければならない部隊があります。それを本土に移せるというのは、あまりにも実態を知らな過ぎます。よく、「目的地までの所要時間はそんなに変わらないから」という意見がありますが、わずか2時間でも有事では命取りになります。海兵隊の地上部隊は陸・海・空の三次元の訓練が出来る演習場と飛行場が近くに必要です。そうした訓練が出来るのは、ハンセン、シュワブしかありません。その訓練している所を見せることで抑止効果があるのです。沖縄に駐留している地上部隊は二つの抑止力を発揮しています。一つは朝鮮半島で2割から3割、もう一つの台湾海峡尖閣諸島を含む南西諸島が7〜8割です。

朝鮮半島には韓国軍に加えてアメリカの陸空軍もいますから、海兵隊の重要性はそこまで高くありませんが、最もウエートが高いのは、やはり台湾海峡です。中国が実行する可能性がある選択肢は一つしかなく、いわゆる「斬首戦」と言われるものです。これは、相手国の政治・経済・軍事の中心部をミサイルで叩き潰して文字通り「頭脳」部分を切り落とす、戦術の一つです。中国は福建省などに展開している約1600発の通常弾頭型弾道ミサイルで、ある日突然、台湾の政治・経済・軍事の中枢を叩いて、混乱状態の中で中国の傀儡政権を作ります。国連は中国が安保理常任理事国ですから動きません。国際社会が手を拱いている間に、台湾国内で親中派と独立派の内戦が起きて、中国が名目をつけて人をどんどん送り込んで、いつの間にか抑えてしまう。それが考えられる最悪のシナリオです。それに対する唯一の抑止力が、沖縄の海兵隊地上部隊です。最速で2時間で中国軍とぶつかります。1回に1千人しか投入できませんが、中国がその部隊と戦闘状態に入るということは、すなわちアメリカとの全面戦争を意味しますから、中国はためらいます。その「ためらわせる」ことこそが抑止力なのです。

―「たった1千人で?」という疑問の声も挙がっていますが…

小川 それは、戦争の意味を全く分かっていないからです。たとえ10人でも正規軍と戦えば、アメリカとの全面戦争になります。

―配置されている輸送機オスプレイは、従来配備されているものより巡航速度が速く航続距離も長いとされていますが、軽量化のために装甲と武器を最低限しか搭載しておらず、実際の戦闘では脆弱ではないかという批判もあります。

小川 それも戦争を全く理解していない意見ですね。オスプレイを叩けば、即全面戦争に突入して、最悪の場合は核戦争に発展しかねないのです。それに、最初に投入される1000人の後には海兵隊だけでなく巨大な陸軍部隊が続くことになります。海軍と空軍も投入される。中国は、そんな米軍と戦いたいはずがありません。

 ―「抑止力としてはアジア最大の空軍基地・嘉手納で十分対応可能。台湾有事を具体的に想定したときに、米空軍・海軍の出番はあっても、果たして海兵隊の役割は必要なのか」という見方もあります。小川 弾道ミサイル巡航ミサイルを撃ち込んでくる「斬首戦」には空軍戦力は対応できませんし、海軍は投入までに時間がかかりすぎます。傀儡政権を樹立した中国側と数時間で戦闘に入ることができる海兵隊地上部隊が抑止効果を持つのは、それも大きな理由です。 

 

 

 

 

 

 

 

日本列島「本社機能」論

 

 

 

―その抑止力としての在日米軍海兵隊としての役割の重要性に、日本国民が気づいていないような気がします。

小川 沖縄だけで考えては見えてきません。日本列島全体で考える必要があります。分かり易く言えば、日本列島はアメリカにとって「本社機能」なのです。他の韓国、イギリス、ドイツなど米軍が駐留している国は、「支店機能」に過ぎません。軍事の世界に「パワー・プロジェクション能力」という言葉があります。直訳すると「戦力投射能力」になりますが、より分かり易く表現すると、「多数の戦略核兵器によって敵国を壊滅することができる能力」または「数十万規模の陸軍を海を超えて上陸させ、敵国の主要部分を占領し、戦争目的を達成できるような構造を備えた陸海空軍の戦力」になります。アメリカは、このパワー・プロジェクション能力のうち核兵器を除いたものを日本列島に置いていることを認識してもらいたいですね。

―日本に常駐する米軍の兵力から考えると、疑問を抱く人もいそうですね。

小川 軍事力の規模は柔軟に変えられるものです。いま駐留している兵力をもとに考えるのは間違いです。アメリカ本土からくる大規模な部隊を受け入れることが可能な基地機能が維持されていることこそ重要なのです。

 燃料や弾薬にしても、アメリカ本土以外で最も大量に日本に備蓄しています。アメリカ本土なみの規模です。燃料貯蔵施設は国防総省管内で第2位の横浜市鶴見と第3位の長崎県佐世保が置かれています。それだけアメリカにとって日本列島は、重要な戦略的根拠地なのです。この日本列島を無くすとアメリカは世界のナンバーワンの地位から転がり落ちます。尖閣に中国が手を出すと米軍を投入するという警告を、穏やかな表現を使ってではありますが、習近平主席に対してこの3年間に2回言っています。仮に日米同盟が無くなると、日本が失うものも大きいのですが、アメリカのほうはもっと大きい。だから、日本人が錯覚してきたのとは逆に、アメリカのほうこそ日米同盟が解消されることを恐れているのです。こうしたデータ、資料は全て公表されているのに、官僚が知らずにきたのは本当に情けない限りです。

―沖縄問題の根底には「無知」も原因の一つに挙げられますね。

小川 やはり、「理詰め」が必要です。もともと日本は理詰めで動くことがなく、「小理屈」の世界なのです。理詰めとは目標を達成するために、最適な手順を踏んで論理的考えながら進んでいくことです。小理屈は、知識偏重型で行動が伴いません。しゃべり散らして終わり。沖縄に関する今の議論は、まさに小理屈の世界です。目的が明確ではありません。

―理詰めの目的は、日本の安全保障…

小川 それと、沖縄の平和と繁栄です。それなのに、その目的が全く見えていない。沖縄のメディアは私から逃げ回っています。挑発しても反発すらして来ない。偏向報道ばかりで小理屈の世界ですよ。これでは沖縄問題の本質は分からないし、理詰めにはなりません。実は、かつて沖縄の革新陣営も私の案については理解を示していたのです。「連合沖縄」は、提言集の中で「普天間は県外がベストだが、それがダメな時はある軍事アナリストが提案しているキャンプ・ハンセンの陸上案がベターだ」と記しています。

―今でも「キャンプ・ハンセン」案を?

小川 もう、自分から口を出す積りはありませんね。普天間返還合意にようやく漕ぎ着けて、その後三回総理補佐官になるように求められ、総理補佐官同様の立場で動いて解決しかけたのですが、その度に政治に妨害されてきました。私が政府の立場で普天間問題に関わったのは、小渕(恵三)内閣の時でした。総理補佐官になる前提でしたから、総理秘書官のFさんから「小川を迎えるように」という指示が出され、その時に出てきたのが、当時、自民党沖縄県連の幹事長だった翁長さんでした。

―沖縄は、「キャンプ・ハンセン」案を現実的な選択と理解しているのですね。

小川 あとは総理が決断すれば解決するのです。仮の移駐先を確保して、普天間の閉鎖をただちにやる。その後に本格的な移設先の整備を進めていくと総理が決断して実行に移せば、沖縄も国の本気度に理解を示すと思います。

―国の安全保障のためとは理解できても、「なぜ、沖縄だけが」という不満はくすぶり続けるのではないでしょうか。

小川 国民が等しく沖縄の負担を分かち合うためには、まずアメリカとの間で特別協定を結び、事故と犯罪の危険性をなくすことですね。そして、沖縄県民は無税とし、教育、医療、福祉も無料にする。さらに、沖縄と日本の未来を切り開くために、世界中の頭脳とお金が沖縄に集まるように、画期的な試みを実行できるような「一国二制度」も検討してみてはどうでしょうか。無税化については、官僚は出来ると言っていましたが、一国二制度については政治的判断しかありません。

 

 

 

主張できないニッポンの象徴

 

 

―本土の一部には「沖縄が反対するのは、お金が目的だから」という声もあります。

小川 お金を欲しがっているのは、本土の政治家と業者に関係のある沖縄の人たちです。関係ない沖縄県民は、お金を欲しいなんて思っていません。総理補佐官と同等の立場で沖縄を何度も訪れましたが、お金に関しては沖縄の人はきれでした。感心したのは、彼らは自腹を切って私を案内してくれました。私が「少しは予算を確保していますから、払わせてください」と言っても受け取りませんでしたね。「これは自分たちの問題だ」というプライドがあるからです。ところが、お金に関して沖縄に関わった中でよろしくない噂が立った人物もいました。沖縄の人たちに大変失礼ですよ。

―利権、認識不足が根底にありますね。

小川 できないことではないのに、やっていないという感じがしますね。地位協定にあたるものはいろんな国がアメリカと結んでいて、例えばドイツはずい分前から土日祭日には低空飛行訓練をやらせていませんし、イタリアは昼寝の時間は飛行させていません。日本が出来ない話ではないのです。米軍の軍事的能力が高く担保されていれば、基地の整理・統合・縮小に応じてくれるわけですから、むしろ米軍に対してもっと予算を回してもいいと思います。普天間移設問題では、目的と加かけ離れたところにお金が使われている印象です。

―日本の独立性についてですが、自主憲法制定などなかなか進まない感じがします。

小川 日本人は口先ばかりですから、真の独立は無理じゃないでしょうか?日本人については「NATO(ナトー)」という陰口がきかれます。北大西洋条約機構ではありませんよ。NoAction TalkOnly、口先ばかりで行動が伴わないという揶揄です。本当に独立を目指していたのなら、昭和30年代までに憲法を改正できたはずです。本気で独立を目指しているとは思えません。真の独立とはどういうことなのか。アメリカの属国みたいに見られているとか、自分たち自身が思っていること自体がおかしい話です。予算から眺めれば、アメリカにとって最も対等な同盟国は日本だということは明らかです。それを、調べもせずに「アメリカに逆らったら安保を切られる」と外務省、防衛省は言うのですが、アメリカは日本でナショナリズムが台頭すると安保を日本側から切られるとずっと危機感を持っているのです。自国の国益を主張できない国は、世界で軽蔑されることを知る必要があります。

―TPP加入も安保、つまりアメリカに守ってもらっているから、という卑屈さを感じますが。

小川 いや、あれでいいんですよ。もっと、主張してもいい。安全保障問題は、日本の国益を主張しながら進めるべきなのに、官僚がやれないのです。湾岸戦争の時のアメリカの国務長官ジェームス・ベーカーは回顧録でイギリスを最も高く評価しています。イギリスに参戦を求めて何度も足を運ばされた挙句に値切り倒されたのに、です。つまり、自国の国益を最優先にして交渉するイギリスの姿勢が高く評価されたのです。一方、日本の評価は最低でした。日本人は、戦力を出さずに金だけしか出さなかったことが低い評価となったと思い込んでいますが、そうではありません。日本が国益を主張しなかったからです。言われるままにお金を出さずに、値切るべきでした。アメリカは、自衛隊派遣を求めてはいなかったのです。四囲を海に囲まれた日本は、危機に直面した経験に乏しい。だから外交、安全保障、危機管理に関しては能力的にも低い。他の能力が高いから、その部分も高いと錯覚しているふしがありますね。世界に通用するレベルで主張できない日本の弱さの象徴が、普天間の問題です。

 

 

 小川氏プロフィール

昭和20年、熊本県生まれ。陸上自衛隊生徒教育隊・航空学校修了。同志社大学神学部中退。地方新聞記者、週刊誌帰社などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。外交・安全保障・危機管理の分野で政府の政策立案に関わる。現在、特定非営利活動法人国際変動研究所理事長静岡県立大学グローバル地域センター特任教授