インタビュー 前泊博盛氏 沖縄国際大学・大学院教授(元琉球新報論説委員長)

基地問題を根本から見つめなおしてほしい

もう、「沖縄問題」と言わない方がいい。

明らかに「日本問題」なのです。

 

前泊博盛氏 沖縄国際大学・大学院教授(元琉球新報論説委員長)

 

イデオロギーよりアイデンティティ」。沖縄の基地問題は「日本国全体の問題」として考えるべきだと主張する前泊氏。日米地位協定の密約をスクープした同氏の日米安保観と知事選の背景を聞いた。(2016年1月)

 

 

沖縄知事選の

背景にあるもの

 

―十一月十六日に投開票された沖縄知事選では、三選を目指した現職の仲井真弘多氏に十万票の大差をつけて、前那覇市長で米軍普天間基地辺野古への移設計画に反対を表明した翁長(おなが)雄志氏が初当選しましたね。

前泊 メディアではあまり報道されませんでしたが、裏側には経済界内の権力闘争もありました。沖縄経済界の新興企業の建設・小売の金秀グループ、ホテルのかりゆしグループが翁長氏支持に回った背景には、彼らが国場グループなど戦後沖縄経済を牽引してきた勢力に対する反旗がありました。

 つまり、仲井真氏が翁長氏に禅譲するだろうと期待していた新興勢力グループが、仲井真氏が三選に出るというのは「話が違う」というわけです。まだ正式な出馬を表明していなかった翁長さんの待望論が高まってくると、仲井真さんは副知事に元々知事待望論が高かった人物を据えました。

 この人物は、これまでの保守系沖縄県知事の政治哲学や理念のシナリオを書いてきた人です。これは翁長さんに対する一種の牽制球ではなかったかと見ています。ところが、ふたを開けてみると、本人が続投するということになった。仲井真さんの年齢もあったし健康不安説もあり本来ならば、世代交代するべきだったと思います。そのことも地滑り的な翁長さんの圧勝に繋がった一つの要因なのでしょう。

―仲井真さんの「辺野古移容認」も敗因では?

前泊 昨年は全員が「辺野古移設反対、県外移設」で動いたわけです。沖縄の自己決定権を確保しようという大きなうねりになっていました。つまり、“イデオロギーよりアイデンティティへ”という合言葉の下、沖縄が一つになろうとしていました。その中に当然、知事である仲井真さんも入っているとみんな思っていました。県民大会での発言もそうですし、県内四十一市町村全ての首長による建白書も上がったわけですから、当然と思われました。

 そのような中で、当時那覇市長だった翁長さんが中心になって、「新しい基地は要らない、オスプレイも撤去せよ。これは政府によるいじめだ、沖縄差別だ」と保革を問わず支持を得ていきました。その中でぽつんと取り残された感じになったのが、仲井真さんでした。

 仲井真さんは、一期目は辺野古容認だったのが、二期目は風を読んで「県外移設」を言及し知事選の争点をぼかした形で再選を果しました。実は仲井真さんは最初から「辺野古ありき」と「カジノ推進」でした。

 前々知事で県民には絶大の人気があった稲嶺恵一さんは、辺野古移設に消極的でカジノについては否定的でしたから、引き摺り下ろされました。

 この背景には、経済界の辺野古移設に伴う新たな建設需要や新興予算、インフラ整備など「辺野古移設」を飲めば、これらの要求が全て通るためにどうしても「辺野古移設」を実現したいという希望がありました。その後に擁立された仲井真さんの役割は、この二つを実現することだったのです。

 仲井真さんは二期目の知事選で、当時、民主党鳩山首相の「最低でも県外移設」という発言で寄り合い所帯の民主党が真っ二つに割れました。仲井真さんはこの時、民主党から「移設反対でもいいが、体を張った反対は止めてくれ。政府から強引に押し切られる形で受け入れる」という密約が、仲井真知事と民主党政権との間で結ばれたという話を聞きました。二期目の知事選挙時の話です。

 私は、仲井真知事は任期中に「辺野古受け入れ」を決めて、公約に反したから辞任する、というシナリオを想定していました。しかし、結果は受け入れを決めて辞めないどころか続投の意思を表明してしまいます。

 知事の辺野古受け入れ表明は、思いの外、県民からの反発が強く、県議会でも与党も含めて知事の辞任を求める不信任案が可決されました。自民党の中でも「やり過ぎだ」という声が上がったのです。

 知事の受け入れ表明の直前には、沖縄県選出・出身の自民党の国会議員五人が雁首そろえて石破幹事長(当時)から「県外移設を撤回して県内移設を容認にしろ」と選挙で有権者に約束した「県外移設」のマニフェストを、強制的に転換させられた。石破幹事長の横で跪いた沖縄の五人の国会議員の姿は、まさに沖縄県民にとって屈辱以外の何物でもありませんでした。これは沖縄における選挙民主主義の崩壊を意味していました。

 選挙で選んでも、選ばれても約束したマニフェストが中央の、自民党本部の政治的圧力で簡単に転換させられてしまう。公約が全く意味を持たないという現実を沖縄県民は目の当たりにしたわけです。

―今回の知事選には経済界の翁長支持は権力争いの図、現職知事落選の背景には政府与党の露骨な介入に対する沖縄県民の怒りがあったわけですね。

前泊 現在、集団的自衛権論議されています。日本国民に想像していただきたいのは、もし尖閣で紛争が起こったら、まず最初に犠牲になるのは百四十万の沖縄県民だということです。

 先日、台風が二日間沖縄に止まりました。その間、沖縄のスーパーから野菜が消えました。船便が止まって物流が停滞してしまったのです。もし、尖閣に有事が起きたら船が止まり、沖縄の物流は寸断されてしまう。台風の比ではありません。沖縄県民は有事の際にはどうやって食べていけるのか。安倍政権は、そういうことに全く無頓着で、想像力が欠如してます。沖縄戦で十分に犠牲になった沖縄は、もうこれ以上、軍の犠牲になりたくないと集団的自衛権に反対しています。

 

分断統治

―日本の米軍基地の七四%が沖縄に集中しているのは安保によるものですから、憲法九条を改正して自分の国は自分で守る体制にすべきだと思うのですが…

前泊 そもそも、日本では右翼、左翼の定義が不明確になっている。これは、アメリカが占領政策の一環で持込んだ「イデオロギーの対立の構図」が元凶です。

 アメリカのやり方は、例えば沖縄では銀行、損保、放送、新聞二紙といった具合に必ず競争関係を作って競合させます。それと同様に「保革」の対立を作り出して、占領国のアメリカに矛先が行かないようにコントロールしてきました。つまり、戦後は日本人同士が分断されてしまった。アメリカの「占領政策で唯一成功したケースが日本だ」と言われています。

 今回の知事選では、イデオロギーで争うのは止めようという一種のパラダイムシフトが起きました。誰のための対立だったのか。オスプレイの配備反対運動をしているのはウチナンチュー(沖縄人)、それを力づくで排除しているのもウチナンチューの警察官。

 当事者であるヤマトンチュー(日本の本土人)やアメリカ人はどこにも出てこない。日米両政府も日米両国民も沖縄人同士を争わせて、高みの見物を決め込んでいます。これが日米安保の現実です。

 安保問題に限らず、原発問題や産廃問題でも同じ構図が出来上がっています。地元民同士が対立し、ぶつかり合い、血を流す。その場に政府や官僚の姿は見えない。福島原発事故、日本各地の産廃処理場問題でも同じです。

 日米安保に関して、沖縄はよく「反米」だと誤解されます。実は沖縄の人々は、戦後、日本で最も長くアメリカと接していて、その影響ももっとも多く受けています。アメリカのロックミュージックや文化、ポーク缶詰など食べ物も大好きなんです。沖縄は「反米」ではなく、「反軍」なんです。

 アメリカの海兵隊はその素行の悪さが米本国でも嫌われています。ハワイの基地では海兵隊が帰ってくると、街が緊張感で包まれるとまで言っています。ワシントンのシンクタンクに取材した時に私が、「在沖米軍の兵士がもっと素行をよくしてくれれば、沖縄の人々の米軍に対する感情はよくなります」と言うと、「それは矛盾です。軍人がお利口さんになったら戦場で役に立たない。人を殺せと命令されたら、理由など問わず、忠実に実行するのが兵士です。人権を考える人は兵士にはなりません」と平気で答えました。

 基地の経済的な効果も、爆音や演習被害の恐ろしさも両方知っているのが、沖縄です。その上で、「基地は要らない」という人々が増えてきました。基地経済は不経済という事実に気づいてきたのです。

 返還後の基地の跡地利用では、雇用は二十倍、四十倍に増え、経済効果四十倍、五十倍と膨らんでいる。皮肉なことに米軍基地返還後の後利用で失敗している事例は一件もないのです。

 政府が沖縄に基地を集中させる重要性を説くのであれば、もっと丁寧に日米安保の必要性を説明すべきです。政府はいつも「時間がない」と逃げるのです。私は「そんなことはないはずだ。丁寧に説明すれば沖縄の人々は同じ国民ですから、理解しますよ」と何度言っても説明しません。実は政府は説明しないのではなくて、説明できないのです。

―それはなぜですか?

前泊 日米安保体制は、実は占領政策の延長に過ぎない。ところが、保守勢力は日米安保を堅持すべきだと信じ込まされている。この国の保守とは一体誰のための思想運動なのか。以前、米兵による少女乱暴事件の時、右翼の街宣車が取り囲んだのは、琉球新報沖縄タイムスの社屋でした。米兵犯罪を糾弾するメディアに矛先を向ける。「矛先が違う。向けるべきは日本の少女の人権を蹂躙した米軍ではないのか」と憤ったことがあります。

 また、沖縄は戦後一貫して保守の島で、復帰後も四十二年のうち二十八年間は保守県政です。国会議員もずっと保守・自民党過半数を占めてきた。

 本土の保守やメディアは、「左翼の島」「革新の島」だと決め付けていますが、事実を無視しています。単に無知なだけかもしれません。

―こちらに伝わってくるのは、沖縄の基地反対運動はいわゆるプロ市民といわれる活動家だと。

前泊 確かにプロ市民もいます。しかし、それはごく一部です。プロ市民だけで、今回の知事選の十万票の大差は生まれません。そもそもプロ市民だからダメという理屈もおかしい。

 政府・自民党は、丸腰の住民運動を機関銃や大砲を積んだ巡視船や軍艦(海上自衛隊掃海母艦)で脅し、制圧してくる。強権的な政治による住民運動の制圧という点では、中国共産党を批判できません。

 知事選挙が終わって、辺野古反対の知事が誕生した今、今後の沖縄の基地問題の核心は普天間問題にとどまらず、最大の争点として米空軍の嘉手納基地の軍民共用や返還問題も浮上してくると思います。

 嘉手納飛行場に比べれば、普天間飛行場など付随施設の一部にすぎません。ましてや、辺野古新基地など、嘉手納がなければ、何の意味も持たない。沖縄県民も、嘉手納飛行場の返還は困難だとずっと思ってきました。しかし、時代が変わって、基地を返還させて沖縄経済の発展の起爆剤に使おうという発想が、確実に広がってきています。

 今度誕生した翁長新知事も新基地には反対していますが、嘉手納など既存基地には反対していません。それも「保革の枠組みの限界」「保守・革新政治家の限界」ともいえます。これは、これまでの沖縄の政治家たちの思想的、発想的限界だとも言えます。

 名護市の稲嶺市長も「新しい基地はつくらせない」と言うけれども、既存の基地には全く言及していません。新しい基地の建設に反対だけでは本質的な解決は不可能です。既存の基地にも言及していかなければ、沖縄の基地問題の抜本的な解決は困難です。既存の基地の容認は、結果として沖縄に過重な基地負担を強いる現状の日米安保体制を追認することになるからです。

―既存の基地は施設が更新されていますね。

前泊 普天間基地を撤去する、返還すると言っておきながら、新しい施設がどんどんできています。米軍の司令官は、「辺野古ができても普天間は返還しない」などと平気で言いますよ。そういう本音を引き出す日本の政治家がいないのです。普天間問題に象徴される日米安保問題を解決しようという政治家は、日米には皆無だと言えます。

集団的自衛権

非現実味

―沖縄の施政権が日本に返されてもう四十年以上の歳月が過ぎています。

前泊 今、復帰前後の研究を進めています。沖縄の施政権返還を実現した佐藤栄作首相がなぜ沖縄返還に執着したのか。それは、前政権の池田勇人内閣が所得倍増計画で成功しているので経済政策では自分の名を残すことが出来ない。そこで目を着けたのが沖縄でした。ただ、それだけです。政治的功名心でしかなかった。

 沖縄返還を佐藤政権最後の年の一九七二年に目標年次を設定し、タイムリミットを設けたがために、アメリカに揺さぶられて、多くの密約を結ばされてしまいました。ちなみに、返還交渉を始める最初の会議で、佐藤首相は何と言ったか。「ところで、沖縄は英語を使っているのか」というものでした。その程度の認識しかもっていなかったのです。その意識が今も継続されていて、安倍政権はサンフランシスコ講和条約が発効した一九五二年四月二十八日を昨年、「主権回復の日」として政府主催の記念式典を開催しました。

 沖縄、奄美、小笠原が日本から切り捨てられた日を、よりによって「完全なる主権が回復した日」と明言したのですから、沖縄、奄美、小笠原は日本ではないと認めたのも同じです。さっそく、中国メディアは、「そろそろ沖縄の所属について本格的に論議を始める時期がきた」と立て続けに報じました。

 安倍政権の浅はかな歴史認識が、余計な波紋を中国に広げるきっかえになりました。慌てた安倍政権は「主権回復の日」をなかったことにして、今年から式典の開催をとりやめました。

歴史認識の甘さがありますね。

前泊 その甘さが、現状認識の甘さに繋がっているとしか思えません。安倍さんはこの主権回復の日を祝って何をやりたかったのか。一九五二年四月二十八日まで、敗戦で失ったために日本には主権がなかった。だから、その五年前の一九四七年に施行された現憲法は無効であるという、いわゆる廃憲論を持ち出したかったかもしれません。それはあまりにもやり過ぎです。

 そして今度は憲法を無視して、集団的自衛権閣議決定しました。中国、韓国に対して反発を買っているのは、こうした誤った歴史認識に基づく発言や政策によるものも大きいと思います。こうした安倍内閣の暴走に自民党内部からも反発する声が上がっています。

 先日、沖縄で自民党の重鎮である野中広務氏が、「安倍君はおかしい。集団的自衛権をやる前に中韓のトップと直接会いに行って、話すべきだ」と批判していました。

 集団的自衛権で「日本を守るために戦っている米軍を、日本が支援できないのはおかしい」との理屈を立てています。でも、いったいどこの国が米軍に手を出せるのか。現実的にはありえません。アメリカが日本人を助けるために米軍を出動させることはありえないし、米軍の軍艦が攻撃されるような事態もありえません。仮に米軍に手を出す国があったら、倍返しどころから百倍返しされますよ。

 また、この議論には経済的な視点が欠けています。例えば、中国の場合、尖閣で日本が国有化を言った途端に「愛国無罪」の大規模デモが起きて日系企業にどれだけの損害が出たか、記憶に新しいところです。

 経済的に中国との関係を無視して突っ走ったらどうなるか。中国との貿易額三十兆円、アメリカが二十兆円です。安倍さんは同盟国のアメリカを取るべきだと主張していますが、経済学や経済安保の観点から言えばアメリカも中国も両方とも取るべきなのです。二者択一の問題ではありません。どちらも取らないと日本の経済は成り立たない。それなのに、軍事安保しか頭にないと、経済安保をないがしろにする。

 福田康夫元首相は安倍さんの動きを危ないと感じて、懸命に水面下で中国にアクセスしてきました。村山富市元首相も両国の関係を心配して韓国を訪問しています。自民党政治はこれまでバランスがいい外交をやってきたのに、安倍政権ではそのバランスが崩れてしまっている。そのことに危機感を抱いた歴代首相や自民党要人らが動き始めている。一部には安倍政権の倒閣運動も始まっているようです。

―その同盟国のアメリカをどう見ますか?

前泊 問題になっている「イスラム国」を今、世界中の若者が支援し始めました。アメリカ国内でもそういう動きが出てきて、今後国内でテロが頻発する危険性が出てきました。

 親を殺された子の怨みはずっと消えません。そうした怨恨の連鎖の種をアメリカは撒き散らしてきた、こうしたアメリカの軍事安保はもう限界に来ています。同時にアメリカの経済力にも限界が来ています。いい加減にこの連鎖を断ち切らなければ、悲劇は起こります。

―それを象徴しているのが、沖縄問題ですね。

前泊 もう、「沖縄問題」と言わない方がいいですね。問題の根元を沖縄に封じ込めて矮小化しています。米軍基地問題は、沖縄問題ではなく、日米安保、日米同盟の問題であり、日本の外交力の問題であり、明らかに「日本問題」なのです。

「受益と被害の分離」

―とは言っても、沖縄の人々の中にも「基地はあってほしい」と思っている人はいると思うのですが。

前泊 例えば、軍用地地主の借地料は年間平均二百万円、高い人で二十六億円とも言われています。地主の数はかつて二万五千人だったのが、今では相続などで四万四千人までに増えています。借地料は米軍分が八百億円、それに自衛隊分の百億円がありますから借地料の総額は九百億円になります。

 この地主の家族を入れると地主有の有権者はざっと二十万人、沖縄知事選の当選者の獲得票数が三十万から三十八万票ですから、この地主の基礎票はかなり大きいですね。それから建設業界の就業者数七万人とその家族票が加算されますからね。基地に依存している人たちはまだ多いのも事実です。

 これは、一種の「受益と被害の分離」策だと言ってもいいでしょう。今の軍用地主たちはかつて農地を強制的に収用された被害者でしたが、今は受益者になって基地から離れた所に住んでいます。一方で、フェンス一枚隔てて土地を持っている人たちは、基地被害もあり、土地も売るに売れず、基地周辺から住宅も移るに移れず、爆音などの被害者になっています。

 戦前の沖縄は、七五%の人が農業に従事していました。それが、捕虜収容所に収容されている間に、農地の大半を基地に奪われてしまった。生産、生活の場を失った農民たちは、農地の後につくられた米軍基地に依存するしか生きる道はなかった。沖縄の基地依存経済は、そこから始まっています。

 基地に依存させて、基地依存経済という麻薬漬けにしたあとで、振興策は要らないのか、基地は要らないのか、と県民を揺さぶる。あまりにひどい仕打ちに、目を覆いたくなります。これが、日本の保守本流の政治手法です。恥ずべき行為です。

―基地は無い方に越したことはないが、その後はどうするのかという切実な問題を抱えていますね。

前泊 基地に依存せざる得ない経済をつくっておいて、基地を無くす、無くさないという議論がずっと続いています。これもある意味、罠にはまってしまった感があります。普天間問題に縛られて、本丸である安全保障問題、その最大の争点になるべき嘉手納問題が二十年間、蚊帳の外に追いやられました。

 普天間にこだわっている限り、沖縄、日本の問題は解決しません。基地を縮小するようなレトリックに、皆が踊らされています。普天間辺野古もどちらも要らないのにいつのまにか「移設か、危険の継続か」という二律背反の選択を迫られている。論理のすり替えです。

 沖縄にとっては、残しても移設してもどちらも苦しみが生じます。そんな究極の二者択一の選択を、迫る政府の姿勢に、沖縄県民が辟易している。そんな政府や政策を選んでいる本土国民に反発しているのです。

―基地経済から脱却して自立した経済を目指すべきだと思うのですが、失業率は依然高いですね。

前泊 沖縄の失業率は日本の平均の倍の数値で推移しています。しかし、復帰前は実は日本平均の半分にしか過ぎなかったんです。つまり、沖縄の今の失業率の高さは、政府の沖縄返還・復帰プログラムの失敗によるものなのです。基地を維持するために基地従業員を大量解雇されたことと、ドルから円に切り替える時に円高に誘導されたために経営者たちが先行き不安を感じ採用を抑制してしまいました。

―日本の国防という観点から言えば、国境であり中国の脅威がある沖縄は重要な地域だと思うのですが。

前泊 そこが、日本人が世界の動きに疎い点だと思います。例えば、冷戦終結EUは冷戦時の半分まで軍事費を削減してきました。これはEU圏内で集団安全保障体制を構築してきたからなんです。それをなぜアジアはやれないのか。それはそれを妨害する動きがあるからです。イギリスの首相は「アジアの民度は低いから武器が売れる」と平気で発言しているくらいです。

―いずれにしても、沖縄の問題は日本の問題であると日本人全体が思いを馳せるようになることも必要だと思います。

前泊 やはり、これまでの「左翼・右翼」「保守・革新」のイデオロギー闘争からいい加減に脱却して、もう一度、歴史や事実、現実を検証し直す時期ではないでしょうか。

 今回の沖縄県知事選は、イデオロギーよりアイデンティティへの回帰を呼びかけた結果ですが、日本全体もやるべきだと思いますね。それなのに、「沖縄問題は普天間問題」と矮小化してしまう。これは、今の日本人の限界なのかもしれません。

 普天間問題は日本の自衛隊ではなくアメリカの基地の問題です。アメリカの基地をつくるのに、日本国民が莫大な税金をむしり取られた上に、建設の是非を巡って長年対立し、やがて戦艦まで投入して国民に大砲や銃を突き付けて建設を強行し、日本人同士が血を流し合わなければならない事態まで生まれようとしている。どうしますか? アメリカはカネも出さない、人も出さないのに、日本人同士が衝突しあっている。アメリカが本当は必要ともしない新基地のためにです。この現実を日本人全体で真剣に論議してほしい。

 

 

 

 

前泊氏プロフィール

1960年生まれ。「琉球新報論説委員長を経て、沖縄国際大学大学院教授。2004年、地位協定取材班キャップとして日本ジャーナリスト会議(JCJ)大賞、石橋湛山記念・早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に「沖縄と米軍基地」(角川書店)、「もっと知りたい!本当の沖縄」(岩波書店)、「本当は憲法より大切な『日米地位協定入門』(創元社 編著)などがある。