政談談論 安倍政権の負の遺産を引き継ぐ菅内閣誕生は 「暗黒時代の始まり」になるかもしれません

菅政権誕生の舞台裏には、メディアの談合が先行し

勝ち馬乗り派閥連合が続きました。

安倍政権の負の遺産を引き継ぐ菅内閣誕生は

「暗黒時代の始まり」になるかもしれません

 

 

 

辞任前の決め打ち

 

 

 持病の「潰瘍性大腸炎」が悪化していることが分かったことなどから国政に支障が出る事態は避けたいとして、八月二十八日、総理大臣を辞任すると発表しました。第一次政権とあわせた通算の在任期間は去年十一月に憲政史上最長となっていて、二十四日には、連続の在任期間も二千七百九十九日となり、歴代最長となっていました。率直な感想から言えば、「持病を持っていたにもかかわらず、よくもったな」と思います。潰瘍性大腸炎は子供の頃からの持病だったと記憶しています。実際、彼が初当選して程なく本会議をかなり長い間休んでいました。それだけ大変な病気で、それが第一次安倍内閣の時に発症し、辞任してしまいました。

第二次安倍政権発足後、色々なことをうまく乗り切ってきました。いつ発症するか分からない状態で長期政権を続けられたことは、安倍氏個人にとっては満足できる政治家人生だったと思います。やるべきだった憲法改正への道筋をつけ切れない一方で、森友・加計学園、公文書、桜を見る会などのスキャンダルを強引に乗り越えたのは、今日の政治家を象徴するようです。

さて、新総裁・首相に菅義偉官房長官が就任しました。総裁選には石破茂氏、岸田文雄政調会長は早くから立候補していました。その後、菅氏が立候補を表明し、一気に派閥の支持を集めました。しかし、よく考えてみてください。それまで総裁選に立候補したこともなくその気配も微塵に見せていなかった菅氏があれよあれよと首相になったのは、なぜでしょうか?雪崩のように菅支持に回った各派閥ですが、これは政策とか政治力学などとは程遠い、単に勝ち馬に乗っただけなのです。実に情けないことではありませんか。国民の目の前で三派閥のリーダーが記者会見を開き、菅支持を訴えましたが、さもしい魂胆が見え見えで恥ずかしい限りです。その結果、その他の小派閥が「バスに乗り遅れるな」とばかりに雪崩をうった結果、俄に菅総裁・総理に決まっていったのです。

では、なぜ菅氏だったのか。この舞台裏を色々と報道する向きがありますが、バスを仕立て上げたのは、メディア以外何物でもありません。実際、私は辞任会見の一週間前、辞意を漏らす数日前の八月二十一日、メディアの政治部シニア達と懇談する機会を得ました。彼らは口々に「菅で決まっています」と驚くべきことを言います。なぜ、彼らはいち早く菅総理誕生を早打ちしたのでしょうか?それは、官房長官と政治部の関係にあります。つまり、ほとんどの非公式情報のネタ元が官房長官をはじめとする官邸で、政治部とりわけベテラン記者とある種の癒着関係があるのです。政権中枢部に深く食い込んでいるのです。官房長官や幹事長に影のように寄り添っているベテラン記者がいます。

そうした関係がある菅官房長官が総裁選に出馬し、支持を集めて総理になるというシナリオが、安倍氏が辞意を漏らす前に彼らの中で出来上がっていたのです。辞任表明直後の次期総裁候補では、各紙とも三候補の一番上に出馬声明もしていない菅氏を持ってきたのは、そうした背景があったからです。メディアの談合です。そのメディアの談合に慌てた各派閥が勝ち馬に乗ろうと押っ取り刀で菅支持に回ったという構図が今回の総裁選の実相です。何の信念もないメディア辞令に従順に従った政治の姿は本当に情け無いものがあります。

党員投票をいろんな理由をつけて省き、党員票に固い基盤を持つ石破氏にかなり不利になりました。元々党内では石破氏総裁を望まない勢力が依然強いことと、二階俊博幹事長が菅総理誕生を見越して、総裁選をリードした結果です。

 

「闇の仕掛人」が表舞台に

 

 

菅氏はどの段階で総裁選に出る決断をしたのか。黒子役に徹していたのですから、最初からその意思を持っていたとは思えません。石破支持が広がらないことと、安倍氏の後継者と目されていた岸田氏の党内での総裁選支持に向けた活動が不足していることを見ていて、「自分が出ても勝てるかもしれない」という欲が出てきたのでしょう。また、そうした努力不足と頼りなさがある岸田氏にせっかく後継者として仄めかしていた安倍氏が不満を漏らしていたのを、側で聞いていた菅氏はチャンスだと思ってのではないでしょうか。

さて、菅義偉という政治家はどんな政治家でしょうか。常に目をぎらつかせ恵まれた同僚に対するジェラシーを感じさせる人物でした。一言で言えば、「闇の仕掛人」としては天才的な能力を持った政治家だと思います。水面下で思いもよらないところに貸しを作って巧みに人脈を持っている政治家です。第一次安倍内閣の時には早くも安倍氏の懐に入っていました。また、金については、官房長官時代に官房機密費の半分以上は使ったのではないかと言われています。機密費とは領収証が要らない性質の予算で国家機密に関る情報収集や工作に使うべきもので、政治工作の為に首相よりも遣っていたようです。

こうした裏で動く黒子役だった菅氏は、本来ならば表に出るべき政治家ではありません。ところが、黒子が表舞台に出て踊り始めたわけです。恐らく、これまで黒子役をやった政治家で表舞台に立った例はないと思います。総裁候補の思わぬすき間を縫って、躍り出てしまった恰好です。

それでは、首相としての資質はどうか。安倍路線の継承が規定路線ですから、大きなミスは犯さないでしょう。しかし、それまで総裁候補として名前が挙がったことがない菅氏の政治家としての信条がどこにあるのかは、全く分からないのが現実ではないでしょうか。そういう意味では一国を預かる首相としては、その実体が分からない、不気味な存在だと言えるでしょう。

任期途中の辞任から引き継いだ菅政権はそのつなぎ役でしかないという見方もありますが、私はうまくやればそのまま続投するのではないかと思います。一年後に予定されている総裁選もうやむやになる可能性があります。二階―菅ラインを強固にするためには何やかや理由をつけてやらないかもしれません。早期解散総選挙の可能性もあると思います。つまり、菅政権のボロが出ないうちに選挙に打って出て少しの負けで済めば、菅首相続投の党内世論を形成できます。

安倍政権の負の遺産に全て関与していた菅氏は、そのまま継承することになります。つまり、負の遺産をさらに膨らます、危険な政権、国民そっちのけの政権運用というのが、菅内閣の姿ではありませんか。官僚の人事権を握り霞ヶ関を震え上がらせ、メディアは平気で権力に尻尾を振る。党内派閥は勝ち馬に乗ろうと政権になびくことしかできず、党内民主主義も全く機能しなくなる。つまり、安倍政権を影で運営していた菅氏自身の内閣は、批判や抵抗勢力を巧妙に潰してより一層「一強」内閣になり、談合やり放題の政治になるかもしれません。誰も批判しない、できない「暗黒時代の始まり」になる危険性も孕んでいるのです。(フォーNET2020年10月号)