人類史上最悪の「悪魔の所業」 中国の臓器狩りの実態を語る

そこが聞きたい!インタビュー

 

 

人類史上最悪の「悪魔の所業」

中国の臓器狩りの実態を語る

 

 デービッド・マタス氏 中国の臓器移植問題を調査している国際弁護士(カナダ)

 

 

本来、医療技術の発達は、人類の幸福のために研究されているものであるべきで、またそうであるべきだ―しかし、その人類の叡智を悪用し、中国では現在、年間6万から10万件の移植手術のために、「良心の囚人」の臓器が収奪されている、というショッキングな事実を我々はどう受け止めればいいのか。(平成三十年六月七日に福岡市で開かれた『ヒューマン・ハーベスト 中国の違法臓器収奪の実態』 主催・SNGネットワーク 上映会・報告会で来日したマタス氏にインタビューした)

 

「アニーの告発」

 

 

 

―今回の来日の目的から聞かせてください。

マタス 「アジア研究」をテーマとした神戸市の国際学会IAFOR(インターナショナル・アカデミック・フォーラム)に参加するために来日しました。その学会では『法輪功への迫害における民族主義的な側面』について発表しました。この機会を利用して、私たちが調査発表している中国の臓器移植についてドキュメンタリーの上映会、報告会にも参加しています。私たちは現在、中国のこの非道な行為を止めたいと思います。そのためには、日本の国民にこの事実を広く知ってもらい、日本が中国に加担しないように働きかけてもらいたいと思います。

―私は、人権意識が全くない中国で違法で非道な臓器移植が行われているようだという認識は持っていました。しかし、日本ではこのことはほとんど報道されていませんし、国会でも取上げられないので、ほとんどの日本国民は実態を知りません。

マタス 問題はかなりの日本人が臓器移植のために中国に渡航していることです。二〇〇六年に私たちが調査を発表して以来、中国当局は外国からの渡航者の数を発表することを止めました。また、日本では臓器移植のために海外に渡航した患者を国に告知する義務がないために、実際の患者数は把握できていません。しかし、調査の過程で、実際に移植で中国を訪れた他国の患者から「日本人の患者に会った」という証言を幾つも得ています。

―2006年から、カナダの元国務大臣デービッド・キルガー氏と共に、中国の「良心の囚人」(無実の人々)を対象に臓器収奪が行われている問題についての調査発表を続けていますが、この活動を始めるきっかけは?

マタス 元々私は国際弁護士として人権問題に取り組んでいて、当時は難民問題を扱っていました。そのような時に「NGO法輪功迫害調査追跡国際組織」から調査の依頼を受けたのが始まりです。私たちが調査に乗込んだきっかけは、中国の病院で夫が医師として働いていたという「アニー」と名乗った中国人女性が、ワシントンDCで衝撃的な証言を行ったことでした。彼女の夫は二年あまりのあいだに二千件ほどの角膜摘出手術を行い、そのたびに月給の何十倍もの現金が支給されていたといいます。角膜だけではありません。心臓、腎臓、肝臓、肺臓など目ぼしい臓器を抜かれて空洞同然となった法輪功学習者の遺体は、そのままボイラーに放り込まれてつぎつぎ焼却されていったと告発しました。彼女の告発を受けてNGOからアメリカの下院に働き掛けがあり、下院委員会できちんとした裏づけ調査がなければ動けないと言われ、私たちに依頼が来ました。

―調査の方法は?

マタス まずは中国で行われている違法な臓器移植が真実なのか、それとも嘘なのかを決定することでした。まず、それを実証する証拠を集めていきました。中国では臓器移植についての情報は厳重に秘匿されています。中国当局に収容され運よく国外に逃れられた法輪功の人々や中国に移植手術のために渡航した本人や家族、告発者にインタビューしました。この他、中国の統計、各病院のウェブサイトも参考にし、病床数、利用率、職員数、助成金・賞与金などの詳細な事項も調べました。もう一つの調査方法は、電話による抜き打ち取材です。約十ヵ月間にわたり、調査員が患者家族を装い、移植認可を受けた中国国内百六十九の病院に電話を掛け、病院の施設状況や手術内容を直接聞き出す方法です。

 こうした調査によって、それぞれの情報の真偽を確認したのですが、虚偽を裏付ける証拠は一つもありませんでした。その結果、中国での違法な臓器移植は真実であると結論付けたのです。

 

 

人類史上最悪の虐殺

 

 

―移植件数はどれくらいあるのですか?

マタス 私たちが調査を始めた二〇〇六年当時、中国当局は死刑囚の臓器を使った移植件数を年間一万人と発表していました。しかし、その数字と実態が大きく乖離していることが分かっています。一九九九年以前の中国の移植病院は百五十軒、二〇〇六年に中国衛生部は新たに移植病院の認可制度を導入、千軒の病院が申請し、そのうち百六十九軒が移植手術病院として認可を受けました。我々がその病床数、稼働率から割り出した年間の移植手術件数は最低でも六万五千件から十万件になります。移植設備のあるこれらの国家認定レベルの病院は、稼働率が軒並み百%を超え、患者一人あたり一ヵ月を入院期間と想定すると、例えば病床数五百の天津第一中心病院では年間約八千件の手術が行われていることになります。このようにして調査していったところ、中国における臓器移植の実態は、中国政府による公式発表の実に六倍から十倍なのです。

―移植手術を受けた日本人の数は把握しているのですか?

マタス 私たちの調査前までの中国の発表では、移植のための海外からの渡航者は全体の二〇%という数字を出していましたが、今は公表していません。また、私たちが「良心の囚人」と呼んでいる収容されて臓器を抜かれている法輪功学習者などの存在は認めていません。日本からの渡航者を把握するためには、医療関係者から国家への告知の義務化が必要です。

―中国の法輪功学習者が迫害を受けていることを中国の一般国民は知っていているのでしょうか?

マタス まず、なぜ法輪功なのかから説明します。法輪功は心身を向上させる中国の伝統的な修煉方法で、中国政府は一九九〇年末までに七千万人の中国国民が修煉していると発表しました。共産党員を上回る数となったため、当時の江沢民国家主席が、法輪功学習者の拡大に脅威を覚えて、迫害し始めたのです。また、中国国内では政府の「法輪功は邪教である」というデマが流されました。法輪功が臓器移植のために虐殺されていることは秘匿されています。私の報告書もインターネットがブロックされていますから、中国国民は知ることはできません。法輪功学習者は迫害されていることを知っていますが、それでも学習する人は絶えないそうです。

―国際社会が臓器移植に反対する動きに対する中国の反応は?

マタス 私たちの調査が出た時に、中国はほとんどの臓器は提供されたものであると回答しました。しかし、当時の中国には臓器提供、ドナーの制度はありませんでした。その後、中国は死刑囚の臓器を使っていると認めます。中国政府はその後、二〇一五年には死刑囚からの臓器は使わず、総て自主的提供者からのものだと発表しましたが、その数は移植手術数と大きく乖離しています。私たちの報告を中国は、単なる噂に過ぎないと否定しましたが、一つひとつ裏付け調査したもので口伝えのものは総て排除しています。また、証拠の数字は総て、この報告を否定している中国が発表したものです。中国政府の否定は全く辻褄が合わないのです。

―この事実を突き止めた時は、どんな気持ちでしたか?

マタス 背筋が凍る思いがしました。囚われて逃げ出すことができた法輪功の学習者にインタビューすると、収容中に定期的に血液、内臓検査を受けていたと異口同音に答えました。彼らにとって過酷な拷問に比べれば検査は苦ではなかったようです。この事実を知った時には、衝撃というよりも悲しい気持ちでした。ユダヤ人である私は、弁護士としてナチスホロコースト戦争犯罪人を追及する活動もやっていました。この体験から、人間の堕落には際限がないということを突きつけられました。本来人命を救うために開発された移植技術という最先端技術が、人命を奪うために使われてしまっています。中国が臓器移植を産業化して金儲けの道具に人命を簡単に奪ってしまう。移植手術を開発した人たちは、まさかこうしたことに使われるとは想像もしなかったでしょう。将来こうしたことに使われないよう歯止めをかけておくべきでした。

アインシュタインも自分の理論が大量殺戮兵器になるとは思わなかったでしょう。

マタス アインシュタインはまさか残虐な兵器に利用されるとは露とも思わなかったでしょう。アインシュタインは元々時計の技術士でした。自分が考えた理論が悪用されることが分かっていたら、時計の技術士のままだったでしょう。広島・長崎への原爆投下は確かにショッキングな出来事ですが、明らかに目に見える証拠があります。しかし、手術室という密室で行われる臓器移植は闇に包まれていて、中国政府は否定していますから、それを実証するのはかなり困難でした。人類はこれまで様々な悪行を重ねてきましたが、これほど邪悪な悪行はありません。中国の臓器移植はホロコーストよりも性質が悪い、人類史上最悪の虐殺だと思います。ホロコーストには、ユダヤ人への妬み、憎しみ、嫌悪などの人間的な感情がありました。しかし、中国の臓器移植は単に金儲けのために殺人が行われているのです。人間的な感情が全くない、国家的な犯罪なのです。

 

 

 

 

犠牲者は法輪功、新疆ウィグルなど無実の人々

 

―中国の臓器移植のやり方ですが、ドナーを脳死状態にするのですか?

マタス ドナーという言葉は正確ではありません。臓器提供を望んでいるわけでなく、強制的に抜取られているわけですから。臓器を取られる人たちは脳死状態にされるのではなく、麻酔をかけられ生きたまま手術されます。臓器を取られているのは無実の人々です。莫大な数の法輪功学習者や新疆ウィグルの独立運動家など政治犯がその犠牲になっています。

―国家による殺人ですね。こうした中国の暴虐に対して世界各国の反応は?

マタス この問題は、国連の人権・拷問に関する調査委員会で取り上げられました。また、いくつかの国々で動きがありました。米下院議会は「移植臓器販売の目的で宗教犯、政治犯を殺害することは、言語道断な行為であり、生命の基本的権利に対する耐え難い侵害である」として、「すべての良心の囚人(無実の人々)からの臓器狩りを即刻停止することを中華人民共和国政府と中国共産党に要求する」などの内容を含む六項目の決議案三四三号を採択しました。欧州議会も同様の決議案が通過しています。この他、イスラエル、スペイン、イタリア、台湾、ノルウェーでは、違法移植を禁止する法律が成立しています。

―これに対して中国の反応は?

マタス 残念ながら具体的な効果はまだあがっていません。二〇一五年に中国は「死刑囚の臓器使用を停止し、国民の自発的提供が唯一であり、臓器提供源は合法的」と発表しましたが、これは言葉遊びに過ぎません。今でも多くの「良心の囚人」たちが生きたまま臓器を収奪されています。二〇一六年の報告書には、中国が意図的に脳死させる機械の実案特許についても記載しています。実際にどれくらい使われているのかはまだ調査できていません。これは、生きたまま取り出した内臓が新鮮な方がいいことと、血液を固まらせない薬や麻酔などは内臓に蓄積されるので、これを使わないために開発されたようです。

習近平体制が強化されています。今後、習体制になって状況は変化していますか。

マタス 習体制が確立されて、一見法輪功にとって良い方向に向かっているとも映るかもしれません。しかし、中国政府の法輪功は邪教であるという方針は変わっていません。臓器移植件数は減るどころかむしろ増加傾向です。これは、中国の医療体制が臓器移植に依存しているからです。迫害を止めろと非難することは簡単なのですが、これを中国が変えることは現実的に難しい。臓器移植産業は中国の五カ年計画の大きな柱になっています。その一方で、法輪功側も二十年近く迫害を受けていますから、警戒心が非常に強くなって国外に逃れたり、隠れて修養している学習者が多くなって、法輪功の囚人の数が減っています。それにもかかわらず、件数が増えているということは、どこからか臓器を取ってきていることになります。

 それではどこから取ってきているのか。昨年から今年にかけて宗教政策が厳しくなって狙われているのが、イスラム教とキリスト教です。イスラム教については二千万人といわれている新疆ウィグル自治区で弾圧が激しくなっています。中国の民族浄化政策で、少数民族を殲滅させようとしています。もう一つの狙いは、その地下に眠る資源です。現在、ウィグル民族全体の血液検査が行われています。さらに現在、中国に一億二千万人いるといわれているキリスト教徒もそのターゲットになっています。

中国共産党が認めているキリスト教徒は三千万人ですが、地下教会といわれるクリスチャンが九千万人います。特に中国共産党を公然と批判している「全能神」という教派は邪教と指定され、片っ端から収容されています。

 

 

日本も加担している事実を知ってほしい

 

 

―このままでは中国を止めることはできませんね。

マタス その通りですが、少なくともお願いしたいのは、日本が中国のこの行為に加担しないことです。これは他の国にも言えることです。日本が加担しない方法は、まず中国の移植医に研修等で技術を教えないことです。また、日本政府のODAで一九八四年に中日友好医院が出来ていますから、それ以降も日本からの資金が新しい病院建設などに流れている可能性もあります。それは調査する価値があると思っています。日本から移植で中国に渡航することも加担していることになりますね。昨年、厚生労働省で移植手術を公的保険の給付対象にする方針が定まり、一千万円ほどになる可能性があるということです。私たちは厚生労働省に直接確認しましたが、残念ながら中国での臓器移植に関しては制限する動きがありません。是非、制限していただきたいと思います。

―また、日本から臓器移植に必要な器材や薬剤が入っているとも聞きます。

マタス 移植された臓器の拒絶反応を抑える薬の術後薬は日本で作られています。たとえ代金と引換であっても移殖手術に必要な器材や薬剤を中国に売らないことも臓器移植の歯止めになります。

―過激な表現になりますが、中国のこの「悪魔の所業」を止めるには、日本は何らかの法整備を急ぐ必要がありますね。

マタス 法整備は是非進めてもらいたいですが、同時に医療の倫理指針も向上させていただきたい。現在、全国の地方議員約六十名が賛同していただき、九つの地方議会で意見書が提出されています。非常に重要な動きです。日本ではSMGネットワーク(医療殺人を止めよ:Stop Medical Genocide)という団体が今年一月に発足し活発に活動しています。ほとんどの日本人がこの事実を知らないことに非常に強い危機感を持って、この事実を少しでも知ってもらおうと活動しています。この団体は、国会議員、地方議員、ジャーナリストらが結集して、非人道的な行為が強く懸念される中国の臓器移植に、日本が関わらないように問題を周知させ、国内の臓器移植環境と法整備を働きかけています。

―本来なら国会議員に働きかけるべきでは?尖閣諸島での中国によるたび重なる公海侵犯や中国海軍の膨張など仮想敵国である中国の悪行は国を挙げて阻止すべきだと思います。

マタス 国会が動くのは簡単ではないようですので、地方議員のネットワークを拡大し多くの国民の認識を高める運動が現実的です。もちろん最低限日本は中国に加担することを止めること、特に医療関係者には中国の医師との交流を断つなどプレッシャーをかけてもらいたい。日本は重要な役割を果せると思います。現在、ニューヨーク、ワシントン、オーストラリア、台湾そして日本で様々な組織が活動しています。欧州評議会で決議された条約には欧州以外の国も署名できますから、まず日本政府が署名するように国民的運動を展開すべきです。そうなると、他のアジア諸国も署名することになるでしょう。地方議員のネットワークの次は国会議員のネットワークを作り、議連に発展させて法整備を働きかけてもらいます。

―これまでの活動で中国からの妨害は?

マタス 何度か体験しました。オーストラリアのブリスデンでのイベントに招かれたのですが、開催前日に私を招聘した新聞社に弾丸が撃ち込まれました。中国領事館の圧力で、サンフランシスコ、オーストラリアなどイベントが直前キャンセルされることは数度あります。香港では中国政府の協力者から私のスピーチ中に大声で邪魔されたこともあります。フロリダ・ゴールドコーストのイベントでは、接続されたインターネット経由で「私はインターネットポリス。あなたは自分の生命を危険に曝しています。怖くはないですか」という脅迫を受けたこともあります。私は「法輪功学習者の虐殺から目を背ける前に、虐殺を阻止してください。私を威嚇しても仕方がありません」と答えました。

 

 

 

 

 

 

デービッド・マタス氏プロフィール

 

カナダのウィニペグを拠点とする国際的な人権擁護の弁護士、著者、調査者。

 

2008年マニトバ弁護士会 殊勲賞、2009年カナダ勲章、2009年カナダ弁護士会 市民・移民部門功労賞、2010年国際人権協会スイス部門人権賞、2016年ガンジー賞など、多くの賞や栄誉を授かる。

2006年、Bloody Harvest: Organ Harvesting of Falun Gong Practitioners in China(血まみれの臓器狩り:中国での法輪功修煉者からの臓器収奪)と題する報告書をデービット・キルガー氏と共著で発表。マタス氏もキルガー氏もこの問題に関する調査のため2010年ノーベル平和賞候補となる。2009年にはBloody Harvest-The Killing of Falun Gong for Their Organs (Seraphim Editions)として一冊の本にまとめる。(邦訳『中国臓器狩りアスペクト社)

2012年、State Organsを共編。(邦訳『国家による臓器狩り自由社

2016年、An Update to Bloody Harvest and The Slaughter(『血まみれの臓器狩り』『The Slaughter』最新報告書)をイーサン・ガットマン氏とキルガー氏の共著でEOP国際ネットワークのサイトより発表。同報告書は、メディア報告、公的なプロパガンダ、医療関係誌、病院のホームページ、アーカイブされた削除済みの大量のホームページなどからの情報を合わせ、中国における数百件の病院の移植手術の開発計画を綿密に精査している。