水道事業民営化について

水道事業の民営化で導入されるPFI方式は

受託する企業がリスクを負いません

民営化には、公共に対する受託会社の説明責任をしっかり

果たせるべきなのです

 

 

パリは再公営化

 

 

 昨年の国会では廃案になりましたが、継続審議中の「改正水道法」は、水需要の減少や水道施設の老朽化など地方自治体が抱える問題を解決するために昨年三月に閣議決定された法案です。改正案は人口減少社会や水道施設の老朽化などの課題に対応するために水道事業の基盤強化を図るものです。具体的には、全国に約1400ある上水道事業の七割を給水人口5万人未満の中小事業者を占めているために、その経営効率化を図るために広域連携を進め、一方では官民連携を進め水道施設の運営権を民間事業者に設定(委託)できる仕組みを導入します。いわゆる、水道民営化です。

 小規模の水道事業では経営効率が悪く、広域連携で効率を高める意義は理解できます。問題は、民営化です。これまで水道事業の一部を民間に委託しているケースはありました。水質検査や浄水場管理、料金徴収など多くの自治体で実績があります。今回の改正案では水道事業の経営を含む全業務について包括的に民間に担わせる方式です。その手法として有力視されているのが、水道施設の所有権を自治体が持ち、運営権を民間に売却するいわゆる上下分離方式、「コンセッション」です。これはPFIの一類型で2011年にPFI法改正で導入されました。

 民間は基本的に営利が目的です。「市民に安全な水を安定的に供給する」という公共性が極めて高い事業を損してまでやるとは限りません。その結果、民間が利益を上げるために水道料金を引き上げたり、過剰な人員削減を進めるなどしてサービスが低下したりするリスクがあります。実際、かなり早く水道を民営化したフランス・パリ市は、民営化して水道料金が三倍に跳ね上がったために再公営化しています。他にも水道料金の値上げや水質の悪化などを理由に民営化から公営化に戻した都市は百以上もあるといいます。改正水道法案は、果たしてこうした失敗事例に学んでいるのでしょうか

 

 

 

 

 

「おんぶに抱っこ」方式

 

 

さて、改正水道法で導入されるコンセッション、PFIとは、プライベート・ファイナンス・イニシアティヴの略で、公共施設などの設計、建設、維持管理、運営に民間の資金とノウハウを活用しようという目的で、公共サービスの提供を民間主導で行うものです。しかしプライベートファイナンスという名称自体が嘘あるいは詐欺であることを知っておくべきでしょう。行政用語でいう「公設民営」です。本来であれば、BOT(ビルド・オペレート・トランスファ)方式であるべきなのです。つまり、手を挙げた民間事業者自ら資金を調達して施設の設計・建設・運営し、所有権は委託期間終了後に公共に戻すという仕組みです。つまり、リスクは民間が負うのです。公益事業というビッグビジネスを委託されるのですから、初期投資のリスクを民間が負うのは当然ではありませんか。しかし、日本のPFI及びコンセッション方式ではその資金を政府など公共が保証しているのでノーリスクです。要するにおんぶに抱っこの方式なのが実態です。プライベート・ファンドイニシアティブではないのです。独占的事業をやるという特権をノーリスクで一部の民間がやっているわけで、大きな顔をしてはならないのです。本来は特権を得る民間が自らリスクを負うBOTでやるべきなのです。

 にもかかわらず、おんぶに抱っこ方式で民間に委託させることの、いかがわしさ、怪しさ、危さをもう一度検証すべきではありませんか。「民から官へ」という掛声に流されてはいけません。公営事業の目的は、あくまでも市民、国民に対する公共サービスを安定的かつ安全に提供することです。それを民間の論理だけでやってはなりません。民間企業の目線の先にあるのは、株主でなければなりませんが委託を受けた民間企業は、株主と同時に国民や市民に対する、つまり国会や議会に対する忠誠も求められます。鵺(ぬえ)のような存在なのです。最近、雨後のタケノコのようにできている「特殊会社」は、あの悪名高き特殊法人が看板を替えただけの代物で、公と民間のグレーゾーンに位置する伏魔殿になっているのではないでしょうか。こうした組織こそしっかり監視する必要があります。

 つまり、公益という特権をリスクなしで受託して利益を上げるこうした事業者の姿は、共産党幹部による山分けによって生まれた中国の企業を彷彿とさせます。中国のことを笑えないではありませんか。日本のPFI方式は中国の局部版であり一部の民間企業が特権を横領しているという見方もできるかもしれません。

特権ビジネス

 

 

こうした公と民の間のグレーゾーンにいる代表的な存在が、JR各社です。民営化しついに株式を上場したJR東海は私たちは民間だと言い募ります。そして充分利益を上げていて10兆円ぐらいでできるリニア新幹線は独力でできますと言ってスタートしているのです。しかしJR各社が民営化する時に数十兆の借金を国が肩替りしていることを忘れては困ります。まずその10兆円を国民に返すべきでしょう。またJR東海元社長の言明に拘らずリニア新幹線の資金調達には国の債務負担があるのではないでしょうか。

 新幹線は鉄路の敷地買収や建設は国と地元自治体が負担しています。BOTのOつまりオペレーション=運営だけJRで、これは一種のPFI方式です。リスクを負わず特権ビジネスをやる先駆的事例なのです。鉄道事業は法律で参入を制限される公益事業です。地域住民のための足を安全にできるだけ利用しやすい料金で確保するべきなのです。あくまでも自分たちは民間企業だという建前を突張ろうとしますが法律によって特権を与えられている公益事業です。

 民営化という美名の下に、いったん民間企業になったらその後の運営について、公は関与させない。公益事業をやっているはずなのに、民間企業のような顔をして公共性を無視しています。経済効率化を図るための民営化ではありますが、そこに公共性という重要な要素をしっかりと担保しておくべきではありませんか。儲けだけを追求せず、踏み切り待ちや事故を防ぐために高架化などに投資すべきなのです。このように公共性と利益を同時に求めるものです。安全対策、利用しやすい料金体系など公共性に投資するのが公共性であれば、費用対効果を追求するのが民間企業です。この相反する事がらを両方共達成できる企業に委託するべきではありませんか。

特権ビジネスだからこそしっかりとしたガバナンスが必要なのです。公益事業の最終責任は国や自治体にあります。それを民間に委託するのならば、その範囲をしっかりと検証し、公益事業を受託した企業は、委託事業に関して株主だけでなく公共に対しても説明責任があるのです。つまり、株主だけではなく、国会や地方議会に対する説明責任があるのです。

 (フォーNET 2018年2月号 太田誠一の『政談談論』より)