インタビュー 東福岡高校 「二%」―男子校の本懐とは 男女別学の意義と教育効果

そこが聞きたい!インタビュー

 

「二%」―男子校の本懐とは

男女別学の意義と教育効果

 

松原功氏 東福岡高校 校長

 

「二%台」。この数字は全国の高等学校に占める男子校の割合だ。少子化時代に突入し、男子校・女子校の共学化が進んだ結果、男子校は希少な存在になってしまった。そんな中で男子校の旗を降ろさない同校の姿から見える、男子校の本懐とは―

 

 

 

絶滅危惧種

 

 

―男子校は年々減少していて、現在は全国の高校に占める男子校の割合はたった二・二%だそうですね。

松原 全国には約五千校の高校がありますが、そのうち男子校は百数校と言われていますから、約二%です。これからは、男子校が共学校になっても、共学校が男子校になることはないでしょうから、男子校はさらに減っていくかもしれません。女子校は男子校に比べて多いですが、それでも割合としては二桁には届いていません。

―福岡県内でも男子校、女子校が共学化に踏み切った高校がありますね。それでも、女子校はまだ残っていますが、男子校は貴校を含め二校になってしまいました。

松原 そうですね、冗談交じりに学校の説明会で「わが校は、絶滅危惧種レッドリストに載っています」とよく言うくらいです。しかしそうだからこそ、生徒には、貴重な教育環境で青春の時間を過ごしているんだよ、と訴えます。

―その中で、男子校にこだわる理由は?

松原 男子校が、共学校や女子校より優位だとかいう比較の問題ではありません。男子校には、特有の教育環境がもたらす教育効果があると思います。これを、我々教職員、生徒、その保護者さらには同窓生が実感しています。ですから、男子校の旗を簡単に降ろすことはありません。また、現実問題として、経営の問題があります。在籍生徒数が減ってきたので、共学化して数的確保を意図する経営判断を否定するつもりはありませんが、幸いなことに、本校は現在五十九クラス、約二千四百名の生徒を預かっています。仮に共学校になれば、校名は変わらなくとも、違う「東福岡高校」になってしまいます。そうならないためにも、「男子校・東福岡」の魅力を発信し続けなければなりません。

―健闘していると言っていいのでしょうね。

松原 子ども達は、中学校までほとんど共学で過ごしていますから、やはり中学生が持つ「楽しくない」とか「暑苦しい」「恐い」などといった男子校へのイメージがあると思います。最初から男子校を選択して入学した生徒はそんなに多くはないでしょう。しかし、いざ入ってみると生徒の評価がガラリと変わりますね。

学校は教育サービスでもありますから、顧客は生徒とその保護者になります。その顧客満足度を的確に把握して、それを教育・指導に生かす努力は欠かせません。その一助として各種アンケートを取っています。その一つとして新入生に対して、入学して約二ヵ月後にアンケートを実施します。テーマは、なぜ東福岡を選んだのか、です。すると、毎年九〇%以上の新入生が「入学してよかった」と答えます。ちなみに今年の新入生は九四%が「よかった」と回答しています。この結果は、日常の生徒指導に役立てると共に、募集広報面での資料にもなります。

 二つ目は、生徒による授業評価です。夏と冬に同じクラスの生徒による教科担当の授業を評価するアンケートを実施します。正直、先生にもやりやすいクラスとそうではないクラスがあると思いますが、あえて無作為にクラスを選んで、生徒には無記名で十項目について評価し点数化しています。これは人事考課には使いません。主旨は、あくまでもそれぞれの先生の授業改善に生かしてもらうことです。肝心なのは、夏に指摘された点が冬にどれだけ改善できているかですね。昨年度の二回目は、平均点が百点満点で九十点に迫る高得点でした。教師陣の優秀性は、最もアピールしなければならない点だと思います。教師は「(分かりやすい・力がつく・より良い)授業をしてナンボ」ですから。毎回、生徒からの評価は高いですね。

 三つ目のアンケートは、保護者に対してのものです。毎年卒業を控えた時期に実施しています。これも無記名でお願いしていますが、主題は「三年間本校に息子さんを預けていかがでしたか」というものです。卒業間近ですから、保護者の方も気兼ねすることなく、まさに率直な意見をいただくことが出来ると考えます。つまり、保護者の本音を聞くことで改善に生かせるのです。今年三月のアンケートでは、八一%の保護者から「満足している」との回答を得ました。有難い結果ですが、一方で満足していない一九%に注目すべきなのです。進路保証が本校の大きな教育目標のひとつですから、この数値をしっかりと認識・分析して今後に資していかなければ、アンケート実施の意味がありません。ここはあくまでも百%を目指すべきなのです。

 

 

男子校の教育効果とは

 

 

―男子校の教育効果についてですが、ある調査では男子校で学ぶ男子生徒の方が共学校で学ぶ生徒より成績がいいという結果が出ています。

松原 「男子校という個性」というタイトルで講演させていただいた機会がありましたので、その際に調べてみました。確かに、別学の男子が共学の男子より成績がいいという結果が出ています。例えば、ニュージーランドのオタゴ大学の研究所が、OECD経済協力開発機構)が行う「PISA」(学習到達度調査)の結果、合計点の平均で女子の方が三十点高かったために、詳しく調べたそうです。男子校と女子校、男女共学の学校に通う生徒や学生九百人を対象に成績の比較調査を実施したところ、男女別学で中等教育を受けている生徒では、男子生徒の成績が女子生徒を上回り、共学校では女子のほうが男子よりも良い成績を収める傾向が顕著で、この傾向が二十五歳くらいまで続いたといいます。

また、「オーストラリア教育研究審議会」が六年間にわたり、計二十七万人の生徒に行った調査では、男女別学で学んだ生徒のほうが一五~二二%も成績が優れ、生活態度も良く、学習を楽しいと感じたり、学校のカリキュラムを価値あるものと認識する割合が高いと報告されています。審議会では「十二歳から十六歳の年齢帯においては、認知的、社会的、発達的な成長度合いの男女差が大きく、共学の学習環境には限界がある」と結論づけていますね。                                 ―別学の教育効果でしょうか。                                 松原 男性の性的な成熟は女性に比べて約二年遅れている、脳の厚さは女性が十一歳で最大になるのに比べ、男性は十八ヵ月遅れる、五歳から十八歳の男女に情報処理能力のテストをすると、幼稚園では男女の差はないのに、思春期には女性のほうが「速くて正確」という差が生じ、十八歳には再び男女の差がなくなるなど、男女の発達上の違いが科学的に指摘されています。男子と女子の発達のスピードが違うのに、同じ内容を同時に教えるには無理があります。発達のスピードに応じるためには、男女別学という形態もあっていいと思います。

―一般に「女子の方が成績がいい」と言われていますが、これはある意味、性差であると。

松原 思春期においては肉体的にも精神的にも一~二年成熟が早い女子に囲まれて、一部の男子が萎縮してしまうこともあるでしょう。そのような「圧力」から逃れるため、男子があえて性差を意識しなくてすむ環境を選ぶ選択肢はもっとあっていいのではないでしょうか。

―それと、異性の目を気にせず、男同士の連帯感も生まれやすいですね。

松原 高校の三年間は人生の中で一番濃密な時間が流れる三年間だと思っています。大事な時間をいかに意義深いものにするかも大切なことで、うちの生徒たちは卒業後もずっと交流が盛んですね。そこも男子校の良さではないでしょうか。

―共学が悪いということではなく、それぞれ子どもの性格や適性を考慮すると、男子校、女子校という選択肢を増やすことも必要ですね。

松原 男子校という選択肢を広げるには、中学生、保護者が持っている、男子校のマイナスイメージを払拭することが必要ですが、容易ではありません。そうした中でも、オープンスクール、体験入学、説明会などで、見て聞いて空気を感じてもらうと認識を新たにしてもらえますね。しかし、来校してくれる中学生、保護者も数に限りがあります。男子校は面白いよ、楽しい、友達ができるよということも大事なことですが、やはり別学教育のメリットの根拠を分かりやすく発信することも含めて、男子校の特性・男子校の良さそして男子校の個性をどう広報していくかが課題です。

 

 

文武両道

 

 

―こちらは「文武両道」を標榜していて、ラグビー、サッカーなど全国レベルの運動部を擁していますね。

松原 部活動はあくまでも教育の一環としての放課後における活動です。そもそも部活動に特化したクラスを作っていません。もちろん、運動特待生はいますが、学校生活上は何らの違いはありません。「本校には、部活に特化した所謂アスリートクラス、体育クラスはないんですよ」と説明すると、意外に思われます。学校はホームルームが基本単位ですから、そこには色んな個性を持った生徒がいて、互いに刺激し合って成長していくべきだと思います。

部活動をやっている生徒はきついですよ。運動特待生の中には「こんなに勉強させられるとは思っていなかった」とぼやく生徒もいます。いくら技量が高くても、彼らの中で将来、プロになるのはごく僅かでしょう。また、セカンドキャリアもあります。ですから、生きていくための学習を修める必要があります。それとクラスで色んな生徒と過ごすことで人間性を高めてもらいたいのです。彼らには「クラスメイトから心から応援してもらえるような選手になりなさい」と言っています。クラスで過ごす時間が圧倒的に長いのですから、いくら部活で活躍しても授業姿勢や生活態度がいい加減だったら、クラスメイトから応援は受けられません。本校の教育理念である「努力に勝る天才なし」の実践を求めています。

―授業もテストも同じように受けるんですね。

松原 特別扱いはしていません。試験前になると、各部の顧問先生は、部員を集めて勉強会をやるなど大変です。成績不振者は、追試に向けての指導期間を設けていてそれが最優先ですから、その間は試合があっても出られません。だから、彼らと顧問先生は必死になるんです。これまで多くの部活動生を見てきましたが、授業などの学校生活での姿勢とそれぞれの競技の技量は正比例すると断言できます。姿勢がよくないと、ある程度まで行けてもそこから抜け切れません。中には中学時代はほとんど練習しなかった生徒が、当校に入って文武両道を追求し一流の選手に育った例を何人も見ています。バレーボール部は伝統として学校の周囲のゴミ拾いをやっています。それも周囲に何も言っていませんから、私は校門指導していて初めて知りました。陸上四百メートルハードルの世界チャンピオンになった生徒も、日頃から学校生活に真摯に取り組んでいますよ。何事も、最終的には「人間性」ですね。その点は、部活動を通しても涵養していきたいと思います。部活動を通じて経験できること、部活動を経験したから獲得できた力、今の時代だからこそ、そういうものがあるのだと信じています。これからも、学校挙げて、生徒を応援していきます。

 

 

松原校長プロフィール

昭和31年(1956)、北九州市出身。小倉高校、早稲田大学教育学部卒業。 昭和54年(1979)国語教師として奉職。学年部長を経て、平成14年(2002)に二代目校長に就任し現在に至る。

 

東福岡高校

全日制普通科東福岡自彊館中学校を併設する。本年度の在籍生徒数は、

高校2363名、中学276名。ほとんどの生徒が大学に進学する。またスポーツ名門校であり部活動が盛んである。サッカー部・ラグビー部・バレーボール部などの活躍が有名。

昭和20年(1945)福岡米語義塾創立

昭和30年(1955)東福岡高等学校を福岡市箱崎に開校

昭和39年(1964)現在地の福岡市東比恵に移転

平成11年(1999)東福岡自彊館中学校開校

平成18年(2006)特進コース設置  特進英数コース・進学コース・自彊館コース(中高一貫)とあわせ4コース体制

平成22年(2010)校舎全面建て替え

平成31年(2019)第62期生卒業  卒業生数、約44500名

 

令和 2年(2020)学園創立75周年、高校創立65周年を迎える

(フォーNET 2019年11月号)