中国で移植を受ければ、無実の人々の命が消されるという事実 「中国の臓器狩り」唯一の証言者が語る

そこが聞きたい!インタビュー

 

中国で移植を受ければ、無実の人々の命が消されるという事実

「中国の臓器狩り」唯一の証言者が語る

 

 

元外科医 エンヴァー・トフティ・ブグダ(Dr.EnverTohtiBughda)氏

 

 

「私は殺人者」。そう懺悔しながら、中国の臓器狩りについて証言を続けるトフティ氏は、イギリスに亡命して中国共産党政権による洗脳の呪縛から解き放たれたという。以後、勇気をもって、過去の自分の罪を告白して世界を廻る、唯一の証言者だ。(二〇一九年四月六日に福岡市で開かれた同氏来日セミナー=主催 「中国における臓器移植を考える会」で来日した際にインタビューした)

 

 

ターゲットは、共産主義者以外の「国家の敵」

 

―今回の来日の目的は?

トフティ 強制臓器収奪という中国の闇を日本の人々に知ってもらうためです。何度か証言しているのですが、あまりにも闇が深いために信じたくても信じられない人が多いのです。臓器移植に関して中国が発表していることにあまりにも嘘が多すぎるために、真実がその嘘に埋れて人々から見えなくなってしまっています。嘘は小さければ見抜くことはできます。このままでは良心の囚人の犠牲は無くなりません。それを否定し続ける中国の大きな嘘を知ってもらうために来日しました。

中国の嘘を暴露する一番いい方法は、囮として移植手術の話を持ちかけることです。正式なルートで臓器を入手するのは、非常に難しいのです。数年前にアメリカのディック・チェイニー副大統領が肝臓移植を受けたのですが、彼は二年半待ちました。ところが、中国の病院のウエブサイトでは二週間でできると公言しています。緊急の場合は何とわずか四時間で臓器を用意できるというのです。なぜ、わずか二週間で臓器を用意できるのか。それは、臓器を取り出すことができる人間を常に確保しているからです。移植する臓器は肉のように冷蔵庫に入れて保存することができません。死んだ臓器ではなく機能しているものでなければならないからです。摘出して恐らく十時間くらいしかもたないでしょう。新鮮な臓器を確保するために、中国は罪のない多くの人々を捕えていつでも摘出できるようにしています。強制的に収監された人々は定期的に血液の検査を受けます。

―そうした臓器提供者、ドナーはどのような人々ですか?

トフティ 中国で臓器を摘出されている人々は正確に言えば、自分の意思で提供するドナーとは言えませんが、便宜上ドナーという言葉を使います。中国のほとんどのドナーは、中国共産党を信じていない人々です。共産主義はそれ以外の思想、哲学、宗教を認めません。共産主義以外は「国家の敵」と見做すのです。収監されていない人々も健康診断という名目で血液を検査されていますが、いつ収監されて臓器を摘出されるか分かりません。少数民族、地下教会信者、法輪功の学習者は共産党支配下にあって従っていますが、信仰は捨てられませんから、彼らは潜在的な国家の敵と見做されています。政府は、血液検査の結果をデータベース化して臓器確保に備えているのです。

 二〇一六年六月から新疆ウイグル地区の人々に対して血液検査など身体検査を始めました。感染病などの理由ではなく、何の理由もなく突然身体検査を受けさせられました。二〇一七年夏に政府はDNAの検査だと言いくるめましたが、DNA検査で血液を採取するのはありえません。ウイグルの人々を潜在的なドナーとして調査しているのです。

私はかつて中国で医療に従事していたので、中国の医師の考えが分かります。文化大革命も見てきました。人間の尊厳が破壊されてきたことを目の前で見てきました。そして、中国では人命が軽んじられてきたことも目の当たりにしました。

―検査を受けた人の中で実際に臓器を摘出されたケースは?

トフティ ある日、突然いなくなった人々はいます。新疆ウイグルでは一九九五年から二〇〇七年の間に、十万人もの人が行方不明になっています。しかし、臓器を摘出された人は死んでいるので、証言者がいません。これは分かっているだけの数字で、現在は全く分かっていません。現在、二百万人のウイグル人が収容所に入れられています。アメリカの調査では、八十万人から二百万人という数字があります。この人たちが潜在的ドナーです。いつ臓器を摘出、殺されても不思議ではありません。ウイグル人の他にもチベット人法輪功、地下教会の信者も臓器収奪の対象になっています。

共産主義を心の底から信じている中国人はあまりいません。ですから、今収奪されている人々がいなくなったら、ほとんどの中国人が潜在的ドナーになるでしょう。私は調査しているわけではないので、実際に中国でどれだけの非人道的な臓器移植が行われているのか、私は知りません。しかし、一人の人間が移植を受けるために、一人の人間の命が奪われる、一つの事例だけで十分です。

 

原爆症告発から亡命へ

 

―この活動に入るきっかけになったのは?

トフティ 私がイギリスに亡命しなければならなかったきっかけは、中国の核実験による原爆症の存在を調査し、それを告発したことでした。私は新疆ウイグルに生まれ、首都のウルムチ市の医科大学を卒業後、腫瘍外科医として鉄道中央病院に勤務しました。一九六四年から四十六回にわたるロプノル地域での核実験がありました。ロプノルとは新疆ウイグルの南東部、タクラマカン砂漠の北東部に位置しています。この核実験は半分が地下、半分が地上で行われました。

病院でガンの治療にあたっていたとき、ウイグル人患者の比率が高いことを不思議に思い、調査を始めました。およそ二千人のガン患者の調査の結果、ウイグル人のガンの発症率は国家平均と比べて三五%高く、ウイグルに長く居住している漢人の発症率も高いことが判明しました。白血病、肺ガン、リンパ腫、甲状腺ガンの患者が圧倒的で高い放射線によるものです。

地元では皆、核実験のことは知っていましたが、私の調査は中国によるロプノルでの核実験を証明することになりました。その後、語学留学先のトルコで、新疆ウイグルの核実験被害の実態をルポしたいという英国のジャーナリストと出逢い、その二日後に彼が現地に入ってドキュメンタリーを作りたいから協力してくれと要請されました。医者としての良心から被害状況を広く公開したいと願っていたので応じて、ウイグルに入り取材クルーのガイド役を務め、私自身も登場しました。これで故郷には戻れなくなり、仕事も家族も全て失うという大きな決断でした。このドキュメンタリーは『死のシルクロード』(Death on the Silk Road)として一九九八年にイギリスの「channel4」で放映され、これで私は中国政府から「お尋ね者」になりました。このドキュメントは後に世界八十三カ局で上映され、現在は「you tube」でも視聴できます。日本語字幕もついています。

 トルコではイスタンブール大学チャパ医学部の外科医として働いていましたが、一九九八年十二月、トルコの首相が中国との「犯罪人引き渡し条約」に合意署名したことをアンカラの台湾人レポーターが伝えてくれました。一九九九年一月二十三日に英国に行き、ヒスロー空港でドキュメンタリーを見せて難民申請しました。一九九九年四月に中国の高官がトルコを来訪しているので、その時まで国内にいたら中国に強制送還されていたでしょう。イギリスに渡って一年十一ヵ月後に難民として認められ、現在はイギリスの国籍を取得しています。

―この原爆症患者を救う活動を始めたのですか?

トフティ 積極的に種々の国際会議や公的な討論の場に参加して、ロプノルの核実験の事実を広め、実験の犠牲者のために闘いました。実験に関わった8023部隊の兵士は補償されましたが、被害で苦しむ村の人々は無視されています。 新疆の人々の九〇%は農民で年間の平均収入は当時5千元でした。当時、一回の化学療法に一万五千元かかったため、ほとんどの人はガンの宣告を受けると治療は受けずに家に戻りました。問題を認識し、被害を受けた家族を補償し、無料で医療手当を受けるよう政府に要求しました。汚染された土地で苦しむ農民への補償も求めています。

被害はウイグル人に止まりません。一九七〇年代以来、中国人が移民していますが、長く居住すればするほど発癌率が高いのです。中国政府はこのプロジェクトの存在を認めておらず、コミュニケーションもとっていません。英国のビジネスマンが話してくれたのですが、代表者として中国を訪問した際、中国政府の役人が「エンヴァーという男は嘘を言っている」と否定したそうです。

 

 

民衆法廷

 

―中国の臓器狩りの実態を証言しますね。これはどういうきっかけで?

トフティ これまで共産党政権下の教育を受けていましたが、西洋社会で目も心も開き、物を見る視点が完全に変わりました。そして自分の罪を認識し愕然としました。一九九五年夏に上司の命令で一度だけ、生きた処刑者から肝臓と腎臓を摘出させられました。処刑場で待機し、銃声が鳴ったら中に入れと言われました。摘出した人は囚人服ではなく私服で右胸を撃たれ、まだ生きていました。看護婦は逃げ出そうとし、私も手が震えました。でもその場では拒否する余地はありませんでした。言われた通りにする、そのような状況でした。当然、移植のためというのも分かっていません。

 当時、英語が分からない私が臓器狩りのことを知ったのは、ロンドンで香港、台湾で発行された中国語新聞で知りました。自分がやった摘出手術は臓器狩りだったと分かり、罪悪感が募りました。処刑者の名前も人種も宗教も分かりません。以来、モスク、寺院、教会などで機会があるごとに彼の冥福を祈っています。二〇一〇年、ずっとこの問題を追いかけていたジャーナリスト、イーサン・ガットマン氏の報告会がロンドンの国会議事堂内であり、その場で初めて自分は医療倫理に反する行為をしたと告白しました。一人で重苦しく抱えていたものをその時、初めて外に出すことができました。正直、最初に証言する時はかなりの勇気が要りました。「殺人者」である私を人々は受け入れてくれるのか、怖かったのです。

その後、欧州議会スコットランド議会など機会があるたびに証言者になっています。ガットマン氏は多くの迫害犠牲者から聞き込み調査し、実際に中国で起こっていることを『Slaughter(屠殺)』という著書にまとめ、二〇一四年に出版しました。臓器狩りを行った証言者として第一章に私の体験が紹介されています。二〇一五年十一月に米国でリリースされた『知られざる事実』(Hard to Believe)という映画でインタビューを受け、証言しています。これらの証言を通して、世界の人々の良心が目覚めることを願っています。初めての証言から十年経って、私を人々が受け入れてくれたと感じています。

―証言者はトフティさん一人ですか?

トフティ 以前はもう一人いたのですが、二〇〇一年に亡くなり、今は私だけが公に出て発表する証言者です。国のためにいいことをやっているという洗脳が解けた今、呼ばれれば積極的に証言したいと思います。私の叔父が検閲の仕事をやっていて自宅に検閲が通らなかった書物があって幼い頃から片っ端から読んでいたことも洗脳が解けた遠因かもしれません。また、ウイグルが政府に不当に差別されていたことに憤りを感じていましたから、元々反骨精神があったのかもしれませんね。また、証言することが懺悔になり、私が犯した罪が少しでも軽くなるかと。

アメリカでは議員に証言したそうですね。

トフティ 二〇一六年、臓器狩りのことを信じられない議員二十五人一人ひとりに面会して、証言しました。予定されていた公聴会がキャンセルされたので、それならばと渡米しました。彼らに情報としては耳に入っていましたが、完全に信じるまでにはなっていませんでしたが、実際に摘出した私の話を聞いて信じてくれたのでしょう。下院で中国の臓器狩りに対する懸念を表明した決議案が可決されました。

―昨年十二月にロンドンで開かれた、世界初の「中国での良心の囚人からの強制臓器収奪に関する民衆法廷」でも証言しましたね。

トフティ この民主法廷とは、国際法上問題がある行為が発生していると考えるNGOや市民等が、自主的に有識者を集めて構成する模擬法廷です。今回の法廷には三十人の専門家が証拠を提示するために出廷しました。私はその中で実際に臓器を摘出した元医師として参加しました。エリザベス女王から権威を授与された勅撰弁護士であるジェフリー卿が議長を務め、審理が進められています。法廷の中間報告で「本法廷は全員一致をもって、全く疑いの余地なく、中国でかなりの期間、極めて多くの犠牲者に関わり、強制臓器収奪が行われてきたことを確信する」と第一回の公聴会で発表した理由を、「今現在でも中国で犠牲になりつつある生命を一つでも救える可能性がないとは限らない」と述べています。

―こうした中国に対する国際的圧力は必要です。どうしたら止められるでしょうか?

トフティ 現実には移植するために中国に行く人は絶えないでしょう。お金があれば移植を受けたいというのが、人間です。政治を動かすには、世論しかありません。無実の人の命を奪ってまでも自分の命を永らえることがいかに残虐な行為なのかという世論を喚起するしかありません。あるいは、中国の現在の政権が瓦解するのを待つしかないかもしれません。

 

エンヴァー・トフティ・ブグダ (Dr. Enver Tohti Bughda)

 

アニワル・トフティとしても知られる。

 

1963年、東トルキスタン新疆ウイグル自治区)のハミ(クムル)市生まれ。ウイグル自治区の首都のウルムチ市で小学校、中学校の教育を受ける。シヘジ医科大学を卒業後、腫瘍外科医として鉄道中央病院で13年勤務。

1964年より46回にわたるロプノル地域の核実験を、不相応に高い悪性腫瘍の発生率から確認。ドキュメンタリー映画「Death on the Silk Road」(死のシルクロード)(1998年イギリスchannel 4)の制作協力により英国に政治亡命

積極的に種々の国際会議や公的な討論の場に参加して、ロプノル(Lopnor)の核実験の事実を広め、実験の犠牲者のために闘う。

英国では、世界ウイグル会議とは離れ、個別のウイグル擁護運動に取り組み続ける。シルクロード・ダイアローグというオンライン上のプラットホームを設定し、様々な利益集団が、礼儀あるやり方で意見交換や論争点の討議ができる場を提供している。

英国に在住することで、意識が変化し、1995年に上司の命令で一度だけ行った囚人からの臓器摘出に対する罪悪感に目覚める。以来、世界各地の公聴会や上映会に参加し、中国での臓器収奪の真実を訴える。

◯ アイルランドでの証言(2017年7月6日):http://bit.ly/2jKnsEI

「中国の元外科医、臓器狩りの証拠を提供―アイルランドの外務・通商・防衛共同委員会で 」(ビデオ付き。日本語字幕付き)(3分)

 

◯ 「中国での良心の囚人からの強制臓器収奪に関する民衆法廷

第一回公聴会の証言(2018年12月10日)

https://chinatribunal.com/the-hearings/

三日目の第一セッション 二人目の証言者(48:28より) (36分。英語のみ)