政談談論(消費税の本筋)太田誠一氏

消費税引き上げは、政治の覚悟が必要不可欠です

世論に阿り、友党に配慮する今の内閣にはそれがありません

 

 

 

 

軽減税率の愚

 

 

 来年十月一日からの消費税引き上げの施行に向けて着実な実行が閣議決定され、今国会で審議されています。安倍晋三首相は閣議で消費増税実施を発表し、「経済に影響を及ぼさないよう特別の措置を講じる」と指示しました。補助金の拡充やポイント還元制度の創設などの軽減税率が検討されています。その目玉に掲げたのが「ポイント還元」です。中小の小売店で商品を購入した客に、税金を原資に価格の2%分のポイントをつけるというもので、ためたポイントは商店やネット販売の代金支払いや値引きに使える。だが、対象になるのはクレジットカードや電子マネーで購入した場合だけ。現金払いだと“戻し税”の恩恵を受けられない。また、消費税引き上げ分を子育て支援など全世代型に転換する財源を確保に充てるとしています。

 軽減税率の導入などという中途半端で、国民に分かりにくく不公平で、企業にとっては煩雑な事務処理とコストの負担を課すやり方は、連立のパートナーである公明党の提案を自民党が呑んだ結果です。一律の税率でいいではありませんか。また、本来の引上げの目的は国家財政の健全化であるはずなのに、世論に阿るあまりに新しい財源に充てるというのは、財政の健全化という本来の目的に反する愚行です。

 消費税引き上げのデメリットに、消費者の購買欲が減る、中小企業の負担が大きくなる、景気が悪化する、駆け込み需要の反動が起るなどが挙げられています。確かに過去の引き上げでは、反動減がありましたし、景気が多少悪くなったのかもしれません。しかし、国家財政はそんなことを言っていられる状況ではすでにないのです。

 読者の中には目をむく向きもあるかもしれませんが、私の持論は「消費税二五%」です。以前もこの稿に書きましたので、今回は特別に紙幅を増やして引用します。

 

 

世界の非常識

 

 

 

今時、八%だ一〇%だと騒いでいること自体が世界の非常識だと思います。消費税率は二五、いや三〇%に速やかに引き上げるべきだというのが、私の以前からの持論で、この稿でも主張したことがあります。他国、特にヨーロッパ諸国は消費税を大幅に引き上げています。そのために経済的負担がかかりGDPは引き上げ分だけ落ち込みました。これは至極当然のことで、日本が消費税を8%に引き上げればGDPはその分下がり、景気が悪くなるのは当たり前です。それを私はもっと上げて25%にすべきだというわけですから、読者皆様の中には反感を感じる方もおられるでしょう。

 私が消費税をいち早く大幅に上げるべきだと主張する第一の理由は、取りも直さずわが国の財政問題です。今や一千四〇〇兆円にも膨らんだ国の借金をこれ以上増やしてはなりません。今の国の財政状態は、個人に例えれば借金した(国債発行)お金を生活費(社会福祉費)にしている、サラ金の借り手の中でも最悪の部類と同じです。借金を重ねているばかりで返す気がない。すでに破綻しているけれど外からは見えない。日本という国はまさにそのようになっているのです。これは政府だけの問題ではなく、国民も含めた国全体の問題です。とにかくこの莫大な借金をいち早く返済する方向に舵を切るしかありません。そのためには消費税を引き上げて、一方では歳出の六割を占める社会福祉費を削減するしかありません。「入るを量りて出ずるを制す」を徹底するしかありません。

 これまで消費税を「福祉目的税」と称し国民を説得していましたが、これははっきり言ってまやかしです。なぜならば福祉目的税どころか、すでにこれまで、消費税収入をはるかに上回る福祉予算を使っているではありませんか。つまり、増税分を福祉に回すどころか、将来の増税分を先喰いして福祉を賄っているのです。

未だに景気が悪い時には消費税を上げるべきではないという声が多いのですが、消費税を二五%にしたところで誰も餓死するようなことはありません。日本はかなり恵まれているのです。確かに増税をきっかけに景気が下降することはあります。しかし、その目的はあくまでも財政再建ですから当然、歳出削減も同時にやるべきです。これまでわが国は借金でその財政を賄ってきた、つまり国民は身の丈に合わない生活をやってきたのです。それを身の丈に合わせるだけなのです。景気が悪くなった、景気が悪いから引き上げないという次元の話ではありません。引き上げれば景気が悪くなるでしょうが、それは致し方ないことです。それが身の丈なのですから。消費税二五%の時代に歯を食いしばって適応する以外にありません。

ヨーロッパの例では、最も賢明な方策は財政健全化規模を十とすれば、その内六が歳出削減、四が増税ということらしいのです。財政を再建するには増税分を上回る規模で歳出を削減しなければなりません。増税社会福祉の削減を同時にやればかなりの苦しみを国民に強いることになります。パニックになるかもしれません。しかし、こうした苦しみやパニックを経験しなければ健康体になりません。こうした苦しみを西欧諸国は歯を食いしばって乗り越えてきているのに日本だけが依然として借金を重ねているのは恥ずかしいことではないでしょうか。日本全体が五年くらいは苦しい思いをして、その先に財政健全化の展望が見えてくるはずです。それを一度もやらないままズルズルと借金を重ねている、この流れを思い切って断つべき時です。

 

 

「景気判断」というまやかし

 

 

消費税引き上げを先送りするため「景気判断」という逃げ道を辿ってきました。「景気が良くなったら消費税を上げる」というステートメントは、「(財政再建を)やらない」ということと同義語になっていました。十数年間5%のまま据え置かれてきた間、ずっと「景気が良くなれば上げる」と先送りしてきました。安倍政権でようやく三ポイント上げた理由も「景気判断」でした。それがここに来て景気を理由に躊躇しています。先述したように仮に消費税を据え置いたままでも実態の景気が良くなるはずがないわけです。それを「景気」を目安に判断すると公言するから、国民は勘違いして「今は景気が悪いのに」と反発するわけです。何のために消費税を引き上げるのかを正直に国民に説明してこなかった政治の怠慢のつけが回ってきています。民主党の野田政権時代に「税と社会保障の一体改革」を打ち上げました。この時、政府は消費税引き上げの理由に社会保障の現状維持を挙げましたが、それこそ誤った「目的税」論です。増税の本来の目的から逸れてしまいました。しかし、それは消費税引き上げの方便として仕方がなかった面もあります。安倍政権は衆議院解散の前提として当時の野田首相に消費税引き上げを約束させられて3%引き上げを実行しました。ところが、アベノミクスをぶち上げて景気浮揚を国民に期待させてしまいました。その結果、アベノミクスが失速しかけて景気が腰折れしたように思い込んだ安倍首相が増税に躊躇しているというのは、実に情けないことです。振り返れば、消費税を引き上げるチャンスは小泉政権の時でした。人気があった小泉首相も引き上げに躊躇したわけです。それは「消費税を上げると政権がもたない」という打算、自己保身ではありませんか。

これまでのように小出しで引き上げていては、いつまで経っても身の丈の生活がどんなものか実感できないし、また生活防衛の手段も分かりません。納税者である国民が非常事態であることをしっかり自覚するしかないのです。今までのように政治家の腰が引けているようでは、国民もどうでもいい問題だと錯覚したままです。いち早く本当の意味での「財政再建のための増税」の重要性を国民に訴え、実行に移すことです。

さて、国全体で身の丈の生活に戻すということは、人間の体で言えばダイエットと同様かなりの努力、我慢が要求されます。それも増税社会保障削減のダブルパンチに見舞われるのですから国民にすればかなりの痛みを伴います。悲観的に受け止められるかもしれませんが、前号で述べたように日本の人件費はまだ高過ぎます。不当な円高を是正して円安に誘導し、賃金の内外格差が縮小されれば国の雇用が増大します。賃金はドル表示で下がり、円安で輸入価格が高騰し一時的に国民生活に重大な影響を与えるかもしれません。そうなると、食糧など国内で生産するしかない、農業が復活し自給自足体制を再構築するしか道はなくなります。

そもそも我々日本人は平和で治安がよく、餓死することもないことにまず感謝すべきではないでしょうか。国民全体がそれ以上の贅沢を求めた結果が国の財政が破綻しそうになるまで悪化させた要因であることを身を以って知るべきです。衣料品はタンスの中に一杯で、住宅はバブルでどんどん建って空き室が増えている、グルメ番組の影響なのかレストランで高級料理を楽しむ人々…日本人の衣食住はすでに飽和状態なのです。一言で言えば、今の日本人は贅沢過ぎるのです。昭和三十年代の日本では、知恵と工夫を凝らし汗水流して働いて、国内でカネとモノが循環した社会で人々は貧しくとも幸福感があったに違いありません。足るを知る「知足」の精神を国民が大いに発露すれば、困難を乗り越えることはきっとできるはず、と信じています。(二〇一四年十一月号)

 

 

政治の勇気

 

 

日本人には元々「倹約精神」がありました。しかし、高度成長時代、バブル経済でその倹約能力、エネルギーが消耗した感もあります。国も個人もまだまだ無駄を削る余地はあるはずです。例えばドイツはしっかり倹約を実行してきました。当時のメルケル首相に対しドイツ国民は、財政危機に陥ったギリシャEUに救済を求めた時に、「私たちは“アリとキリギリス”のアリ。どうしてキリギリスのギリシャを救う義理があるのか」と批判しました。サミットで安倍首相がメルケル首相に「世界経済が落ち込んでいる中、日本も投資を積極的に増やすので、ドイツも一緒に世界経済の牽引車になろう」という呼びかけに対してメルケル首相は「日本はいずれギリシャのようになりますよ、そんな愚かな提案には乗れない」と一笑に付したそうです。

ドイツなど財政再建に成功した国は、国民に対して正面から消費税引き上げを呼びかけました。増税はどの国の国民もできれば避けたいから反対の声があがり、内閣がいくつも倒れました。それでも政治は引き上げを諦めず、ついに増税にこぎ着けました。これは、政治の勇気以外何物でもありません。政治が勇気を持って、国民に向き合うことが必要なのです。