空気に支配された「長期政権止む無し」という閉塞状態を打破するには

自民党総裁選目前なので総裁選をどう見るかの一考察。

 

 

空気に支配された「長期政権止む無し」という閉塞状態を打破するには、

自民党総裁選で少しでも「石破票」を上積みするしかありません

 

太田誠一

 

 

 

岸田氏の大罪

 

 

 今月に行われる自民党総裁選挙。八月七日現在では、三期目を目指す安倍首相に対して、元幹事長の石破茂氏、総務相野田聖子氏が出馬を表明していますが、事実上安倍、石破の一騎打ちになるでしょう。しかも、すでに「安倍続投」の空気が漂っていますから、「消化試合」の様相を呈しています。かつて自民党総裁選は各派閥の領袖が政策論で火花を散らし、事実上の総理選出の場でもあり、白熱した選挙戦が繰り広げられていたものでした。そういう意味では、今回の総裁選の白けムードにはある種の危機感を覚えてしまいます。

 このムードを作ってしまった戦犯の一人は、早々と不出馬を表明した岸田文雄政調会長でしょう。通常国会が閉会して総裁選に向けてこれからという時に不出馬を表明した岸田氏は派閥の領袖としての責任を放棄したという他ありません。これは出馬の動きすら見せなかった他の派閥の領袖にも同じ事が言えますが、岸田氏の場合、今回は出ないという選択がなかった立場であり、負けたからどうということはなかったのですから、敵前逃亡と非難されても仕方がありません。しかも、不出馬を表明した後に、自分の派閥に対して、「安倍支持」を呼びかけるなど、その節操の無さには呆れてしまいました。そもそも岸田氏は、総裁選に出る気持ちが無いのなら、宏池会の会長を引き受けるべきではなかったのです。また、出ないのなら会長を辞し出る気のある後継にバトンを渡すべきです。

 今の段階の総裁選の状況は、自民党国会議員の七割が安倍支持という数字が出ています。前前回の総裁選で党員票を集め、党員票では首相を圧倒した石破氏でしたが、今回は党内がある種の「安倍再選」の空気に支配されていて、本来は「石破氏を支持している」層も自己保身で安倍支持に流れています。前前回は国会議員にはすでにそうした空気が漂っていましたが、今回は党員まで広がっています。しかし、この選択はあくまでも「消去法」「自己保身」によるものではありませんか。つまり、自民党議員の大多数が安倍政権の六年間を評価して支持しているわけではありません。確かに二期目の総裁選(無投票)で安倍首相が再選されたのは、一期目のアベノミクスや異次元の金融緩和、インフレターゲットなどの政策が一応順調に推移していると思われたからでしょう。

 二期目には、「モリカケ問題」などの不祥事や経済政策に陰りが見え始めたことに加え、安倍首相の態度物腰に嫌悪感を持ち始めている議員は多いはずです。決して安倍政権の二期目の評価しているわけではありません。

 

 

試される自民党

 

 

 このままの情勢では、安倍再選は間違いないでしょう。焦点は、石破氏に投票する議員がどれだけいるか、ということになります。安倍批判の意思表示をどれだけの議員ができるか。一部に政権を批判すれば「冷や飯」を食わされると自己保身に走っている議員や首相に逆らって「冷や飯」を示唆する首相側の派閥領袖がいると報道されていますが、全く以て低次元で情けない話ではありませんか。実際、安倍不支持で安倍政権の間に冷や飯を食わされたとして、それがそれぞれの議員の政治生命や議員活動にどれだけの影響があるというのでしょうか。

 実態は周囲の阿り、或いはレベルの低い恫喝による安倍一強という自民党、対して野党はきちんとした対案を出せずその上分裂状態に陥っている今の政治状況は、一種の閉塞状態だと言ってもいいでしょう。また、コアな自民党支持者の傾向は、今の党内の状況を良くないと思っていても、自分が支持する議員には、波風立てず大勢に順応して欲しいという矛盾した思いを持っているはずです。一方では、こういう時こそ闘うべきだと思っている支持者もいるはずですが、切り崩されている状態です。無党派も含めた自民党支持層には、反安倍のマグマはたぎっているかもしれません。

 そういう意味では、自民支持層と総裁選の実態にはねじれ現象が起きていると言えるかもしれません。それならば、自民党以外の保守政党の萌芽があるかと言えば、ありません。なぜなら、メディアの存在があるからなのです。安倍

政権もそうですが、政治がメディアに迎合しているのです。メディアを利用しようとしているから、メディアの目を気にするが余り、自らの政治活動を自縄自縛の状態に陥っています。本来、政治家は自身の政策、政治信条を内外に打ち出すという潔さが求められるはずです。ところが、今の政治は無難に過ごそうと、メディアに迎合しているのです。ところが政治がそれだけ恐れているメディア自身が「政治の現実」に迎合しようとしているのですから、政治、メディア双方が竦んでいるのが、実態です。

 

 

独裁に歯止めを

 

 

 

 よく「安倍首相に代わる人材がいない」という声が聞こえますが、これは全く根拠のないデマです。こうした声を流しているのは、安倍首相を徒に擁護しようという周辺なのです。これにメディアも加担しているのです。対抗する候補に対して「顔付きが悪い」など本来政治に全く関係ない、貶める報道や醸成する空気もそうした勢力の仕業でしょう。「安倍続投だろう、仕方がないからついていこう」という党内のこうした閉塞感を打破する方法は、一つしかありません。いかに石破票を増やすか、です。安倍周辺の心胆寒からしめるくらいの総裁選にすべきです。それが、この国の閉塞した政治状況を打破する無二の手段なのです。

 連続で2期6年までとなっている自民党総裁の任期が「3期9年」まで延長されました。今回安倍首相が再選されると、二〇二一年までが任期になります。この任期延長の幣害について、この稿でこう指摘しました。

 

「長期政権に立ち向かう党内の対立候補が出にくいということです。実に情けないことですが、現に「長いものには巻かれろ」「嵐が過ぎ去るまで」と異論はあっても無抵抗になってしまっている総裁候補者がいます。そうしたリーダー候補の後姿を見せられると、党内若手に人材が枯渇してしまう危険性があります。最大の幣害は、長期政権によって総理が「裸の王様」になることです。つまり、権力の長期化で周囲がゴマすり集団化してしまう恐れがあります。政策、政治信条に賛同するのではなく、首相の歓心を買いたいイエスマンが周囲に集まって、独裁的になってしまう恐れがあります。独裁者を目指すこと自体が悪いのではなく、それにブレーキをかける気概が誰にも無いことです。皆が権力者に群がってその結果、雪だるま式に独裁的になることが一番恐ろしいことなのです。何の定見も無く、意思も薄弱な政権が独裁的になることほど厄介なものはありません。任期延長の話が出ているのは、取り巻く議員たちのそうした権力への迎合姿勢の現われではありませんか。」

 

 今の総裁選の様相はまさに私が恐れていた状況になりつつあります。中身が空っぽの雪だるまが大きくなっています。だからこそ、今回の総裁選は、敗北する側が「意味のある敗北」を目指すべきで、現政権に圧力をかけ、独裁を阻むべきなのです。

 

フォーNET 2018年9月号